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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第一章 ホワッグマーラの変
53/387

52:目覚めの期待は眠りに消える

「おいおいどうしたよ、フェズ。『太古の法』使って疲れたか?」

「むかっ。ズィプにくせに」

「俺だからな」

「意味わかんないし」

 あのフェズルシィのマカを、ズィーはかき消していた。なかったことにしていた。まるで空気中の魔素を操れる『太古の法』と同じように。

 フェズが魔素で剣を作ろうものなら、すぐさま霧散させる。火炎、雷、氷塊、鉄球、土砂流……魔素が絡んだすべてが、ズィーの前には無力だった。

「よっしゃ、ようやくフェズに勝てる日が来たぜ!」

 ズィーは空気を操り、フェズを引き寄せる。さすがに剣はやりすぎかと、納刀する。灸をすえる意味を盛大に乗せた拳を引き、迫る親友に殴りかかる。

「やめた」

「ぅえ?」

 不貞腐れたフェズの声に、ズィーは空を殴った。それでも、その先にあった屋台の瓦礫が一掃された。

「やめたって……」

「だってズィプに負けるとか、ないしっ」

「んなっ。そんなことないだろ、俺だってお前に勝つことぐらいできらー!」

「できてないじゃん。今も結局殴らなかっ、っぶ……!」

 ズィーは外在力を解いた。しかし容赦なくフェズの顔面に拳を叩き込んだ。フェズは倒れた。

「殴ったろ?」

「……」顔を押さえながら上体を起こすフェズ。「ズィプのくせに」

 ズィーは友に手を差し出す。「ほら、行こうぜ」

「どこに?」

「セラのとこに決まってんだろ。セラに謝れ。んで、一緒に敵倒すぞ」

「しょうがないな」ズィーの手を取るフェズ。立ち上がりながら、肩を竦める。「セラに謝る必要はどこにもないけど」

「また殴るぞ」

「次はないし、むしろ殴り返す」



「ああ、ごめんごめん」

 セラの感覚ですら意味をなさない暗闇の中、ズーデルの軽い声が響く。

「『それ』はもう『俺』になっちゃったから、暗くなっちゃったね」

 空気が小刻みに震えた。

 そして間もなく、天井が大きな音を立てて消えた。長い空洞から光が差した。

「これで明るくなった。さすがにさよならは顔を見て言いたいよね」

「俺たちを殺すのか、君が出ていくのか。どちらにせよ、それは叶わないと思った方がいい」

 ビズラスはセラの横に立ち、オーウィンを構える。

「幽霊だから死なない、とは考えてないんだ。さすがは舞い花ちゃんのお兄さん」

「君もそれくらい油断はしない方がいい。特異な力を得たからってね」

「アドバイスありがとうございます、お兄さん。でもさ、油断どうこうの話は妹にしてあげるべきだったね」

「はっ……ぁ…………」

 セラは唐突に息を漏らした。

 ありえない。

 セラは思う。

 感覚は目の前だけでなく、全方位に向けていた。

 油断はなかった。

『それら』を手中に収めたズーデルに、注意は怠らなかった。

「君たちナパスの十八番で死ぬのはどんな気分かな、舞い花ちゃん?」

 前からしていたはずのズーデルの声が、後ろから、耳元でいたずらが成功した子供のように囁いた。

 台座のズーデルの姿が、雲のように次第に消えていく。セラはままならない呼吸の中、その姿を睨む。そしてすべてが消えると、視線を落としていく。

 胸を、真っ赤な血でてらつく剣が貫いていた。

「セラ!」

 ビスの叫びに歪めた顔を向ける。兄もまた表情が歪んでいた。

「っ、っは……ビズ、にぃ――…………」

 痙攣した声は最後まで出てこなかった。

 視界が歪む。

 ガクンと、揺れた。

 床が見えた。


 暗くなる。


 意識が、遠のく。



 遠のく中、セラは期待していた。



 古が目覚める。



 しかし、それは予感ではなく、期待だった。




 意識が、消えた。





 命が――。






 ――消えた。

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