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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第一章 ホワッグマーラの変
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49:姿を消すもの、現すもの。

「大会は終了、中止です。今すぐ避難をお願いします!」

 蒸し暑い渓谷に姿を現した幽体のユフォン。棒術を駆使して戦う背の低い女性を護るように、衝撃波のマカで彼女の敵を吹き飛ばしてそう告げた。

「もし異空移動の手段がなければ、僕についてきてください」

「……もしかしてユフォン・ホイコントロさんですか!」

「え、ええ、そうですけど」

「わたし、モァルズ・デュ・ウォルンと言います」

 深々と頭を下げる刈上げの女性モァルズ。

 ユフォンは彼女の名前に聞き覚えがあった。なにより、著作に記したこともある。

 セラの従者の孫だ。

 と、二人に向かって白雲のマントの男が飛び掛かってきた。ユフォンはその男に向かって魔素を放ってから、モァルズを伴って渓谷の上へと瞬間移動した。

 そして続ける。

「ヅォイァさんのお孫さん?」

「はい!」勢いよく上がる頭。「存じてもらえて光栄です」

「いや、ははっ、こちらこそ勝手に名前を出しちゃって」

「あ、はい。あ、いえ、いいんです。むしろわたしなんかの名前を『碧き舞い花』に使っていただいて、ありがとうございます。これ、絶対伝えようと思ってたんです」

「ははっ、それはよかった」ユフォンは笑って、それから表情を締める。「でも、申し訳ないけど、今は一大事なんだ、避難を」

「いいえ、不肖モァルズ、戦います!」

「気持ちは嬉しいけど……あぁ、君ってヅォイァさんに似てるって言われることあるかい?」

「え?」ユフォンの問いを訝しみつつも、モァルズは頷く。「はい、ありますけど。芯が強いとか」

「負けず嫌いとか?」

「はい。言われたことあります。えっと、それがなにか?」

 ヅォイァは頑固なおじいちゃん。セラがいくらやめてと言っても、自身が彼女の道具(・・)であることだけは絶対に曲げなかったのが彼だ。

「ううん。セラもそうだから、君もきっと強いんだろうなって」

「そんな、セラさんには到底及びません。この前もわたしが弱すぎたせいで、戦う以前に全く相手にされませんでした。ユフォンさんの物語の中やおじいちゃんに聞いていたより、だいぶ戦士でした。感情を押し殺した冷たい目で――」

「えっ!?」

 ユフォンは耳を疑った。彼女が口にするセラの態度もそうだが、彼女がセラに会ったという事実は疑う余地がありすぎた。

「この前って、いつだい?」

「つい四日前です。ドルテモで」

「…………」

「行方不明って聞いていたので、わたしも舞い上がってしまって、やっぱりそれで気を悪くしてしまったんですかね……今度会えたら、ちゃんと謝りたいです」

「…………」

「あの、ユフォンさん?」

「ああ、ははっ、ごめん。ちょっと考え事を」

 はぁ、と不思議そうにするモァルズの肩に手を置くユフォン。

「デルセスタなら知ってるから、僕が送っていくよ。あと、多分セラには謝らなくていい。君はまだ彼女には出会ってないんだからね」

「え?」

 モァルズの当惑顔が歪み、二人はホワッグマーラから姿を消した。



「オニサンもサイン、するネ!」

「えっ?」

 行商人ラィラィに、開かれた『碧き舞い花』と万年筆を押し付けられ、ユフォンは困惑した。しかしそこにセラのサインがあることに気付いて、なるほどと思った。きっとセラもこの混乱の最中にサインを求められたのだろう。そして、応えることでラィラィを納得させ、安全を確保させたのだろう。

「あー、ははっ、喜んで」

 ユフォンはにこやかに『碧き舞い花』二冊に、サインを加えた。

「ありがとネ! これで今回の損害はチャラになるネ! またネ、オニサン!」

 ラィラィはせわしくユフォンに手を振ると、バッグから鳥籠を取り出し、その中にいたオウムを外に出した。

 オウムはみるみる大きくなり、最後には自身が入っていた鳥籠を首に掛けるほどになった。ラィラィはそれに跨り、マグリアの空に飛び立った。

 天高く上る途中、ラィラィとオウムは急激に小さくなってその姿を消した。気配も消えたことから、異空に出たのだろうとユフォンは判断するのだった。

「珍しいオウムもいるものだ」



「空気だからって安心しすぎはいけないってことだ」

「ううぅ……」

 ヒャリオ・ホールは退化した翼を持つ鳥人の足の下敷きになっていた。

「モーシャ、そんなガキもう放っておけ」

 鳥人モーシャにそう言うのは、真っ黒な毛並みの犬男だ。彼は白雲のマントを羽織る。

「なに言ってんだ、マフ。気体人間と戦える機会なんてそうないってもんだ」

「目的を違えるな。ズーデル様に殺されるぞ」

「邪魔するやつを殺すのも命令のうちのはずだ」

「あの人の邪魔になるようなことをすれば、殺されるのは俺たちの方だ」

「本気でやりたかったぜ、『碧き舞い花』。せっかくの本物だったんだぜ?」

「それは残念だな」

「いつ、までも……」ずっと踏みつけられていたヒャリオだが、会話に意識が向いたモーシャの足を押し返す。「痛いんだよ!」

 風が巻き上がり、ぶわっとモーシャを浮かす。

「おおっ」

「さっさと殺せよ、モーシャ」

「くやしいけど! リベンジのためにも、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」

 乱雑に空気が騒ぎ、それに紛れるようにヒャリオは敵の前から姿を消した。

 そうして彼は世界の空気に漂いながら、朦朧とする。

 流れるまま、引き寄せられるがままに。

 呼ばれるに任せて。



「うっひょ~、外在力ンベリカ級じゃね?」

「そんな」

「な、セラ」

 セラの前に現れた若き日のズィーは、いとも簡単にフェズの魔素を止め、はしゃいで、嘘のように笑って、地続きの記憶に従って、彼女に同意を求めてきた。

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