47:ドルンシャ帝の覚悟
「うぁあ゛ぁああっ……っが、ぐぁああ…………!」
身体を何度も何度も刺すような痛み。頭からつま先まで余すことなく、すべてが痛む。
次第に恒常的な痛みに慣れてきて、細めた瞳で身体を確認するセラ。どこにも出血はない。電撃が効かないとわかり、単純な痛みで攻撃してきたらしい。
ともかく、原因は外在力。空気を纏ったこと。それをフェズも失敗だと言った。
纏った空気に含まれる魔素で攻撃してきている。
セラは身体から空気を解放した。
地面に膝を着く。「はぁ、はぁ、はぁ……」
痛みからはすぐには解き放たれなかった。じんわりと残り、身体が一回り大きくなったような感覚だった。
そうして動けないでいるセラに向かってフェズは言う。
「そろそろ終わりにしていいか。限界が近い」
「……息、切れてないじゃないですか」
「ま、慣れたから」
フェズが腕を上げる。
あれが振り下ろされたら、魔素が襲い掛かってくる。
まだ痛みは治まらない。呼吸も整わない。
世界規模の魔素を防げる手立てはない。
跳ぶか……。
跳ばすかだ!
セラはキッとフェズを睨み、なによりも早い移動法を触れずに行なった。跳ばす先は決まっている。
碧き花を散らして消えたフェズ。その気配がコロシアムの中に移った。そして強大な魔素が、ある男の気配に向けて落ちる。
うまくいったようだ。セラは立ち上がり、大きく息を吐いてから花を散らし、第二ラウンドへと向かっていく。
地下闘技場に覇王と帝が降りてきた。
「よっと、とりあえず降りてきたけど、さすがにコロシアムの地下じゃないよね? どこなの?」
「……」
ドルンシャはなにも言わずにズーデルを睨む。その姿を見てズーデルは「ああ」と気づいて、宙に浮かせていた帝の身体をどたんと地面に落とした。
「さ、どこ?」
「結局」ドルンシャが四つん這いのままズーデルを見上げる。「詳しい場所までは知ら、っが!」
ズーデルが指を一振りすると、ドルンシャは地面に強かに身体を打って悶えた。
「そんなことは聞いてないって、わかるよね? 死にたいの?」
「……殺せないくせに」
ズーデルはドルンシャを見下ろし、それから目を長く閉じた。しばらくして青を現すと、指で空をしゃくり上げた。
ドルンシャの身体が再び浮かび上がり、ズーデルより半身ほど高い位置で止まった。
「殺せないかどうか、試してみる?」
「悪いが、俺は死んでもこの世に留まらないぞ」
「死体と幽体から記憶を読み取らせないためでしょ。でも半殺しならどうかな?」
「そうなったら、自ら命を絶つさ。その覚悟がないとでも?」
「そ、じゃあそのご立派な覚悟、見せてもらおっかなっ!」
ズーデルが腕を振ると、ドルンシャは壁に激突し、そのまま壁を削りながら周回する。
しかしいつまでもやられてばかりではない。
ドルンシャは魔素を全身から放ち、壁を離れた。その勢いに乗せてズーデルに向かっていく。拳に魔素を集め、鋼鉄を生成する。
「へぇ、すごい。何もないところから鉄を作れるんだ。さすがは帝だねっ!」
殴りかかるドルンシャに笑顔を見せたズーデル。その余裕と共に覇王を吹き飛ばそうと腕を振るったドルンシャだが、敵の指一振りで地面に落とされた。
だがすぐに立ち上がり、下から殴り上げる。
今度は躱し、ドルンシャの腹に反撃の拳を入れるズーデル。
また見えぬ力に吹き飛ばされるか、押さえ込められるかと考えていたドルンシャ。今の反撃に、敵の力が呼吸ほどの馴染みがないのだと知る。
そして彼もまた反撃に出る。腹の苦痛を押し退け、膝蹴りを返す。それはズーデルの腕に受け止められたが、帝は膝から突き抜ける魔素の一撃を放った。
「っ!?」
顔を逸らしたズーデルの頬に赤い一線が走った。
「っち!」
ズーデルが舌打ちし、それが合図となりドルンシャは大きな力に吹き飛ばされた。
地面に伏したドルンシャは、手の平で闘技場の床を叩いた。すると、地中を流れた彼の魔素がズーデルを足元から襲う。
はずだった。
ダンッ――。
ズーデルが足を踏み鳴らすと、ドルンシャの魔素は跡形もなく消えた。
「穴があることは認めるよ。でも、この場の大体は俺の支配下にある。勝手は許さない」
「……っ」
立ち上がろうとしたドルンシャに、陽炎が迫った。