45:“そういうことだ”
「ジイヤ殿! 俺はここを抑える! フェズくんとセラちゃんもいるんだ、大丈夫だろう! 娘を安全な場所へ頼む! シューロくん、一緒に!」
「はいっ!」
ブレグのその大声とシューロの返事を聞いて、ズィーも声を上げる。
「コロシアムは俺が!」
「了解しました!」
ジイヤが主にブレグに向けてから叫んでから、シューロに寄り沿われるジュメニの元へ移動をはじめる。
ブレグは爆発の後に一気に現れた敵たちに向かっていく。
それを見てからズィーはマグリアにあるコロシアムを思い浮かべる。想い人の顔も一緒に。
スヴァニを抜き、空気も纏う。準備万端。
いざと言わんばかりのズィー。その透けて見える背景が、渦巻いた。
空気の揺らぎを感じ、敵に後ろを取られたと思い、彼は振り返る。
そして、「おっ」と目を瞠る。
「……そんな」
「おう、ユフォン。やっぱ会えた。戦闘以外の勘も随分役立つようになってきたな」
ひとりで頷くズィーの前には、同じく、透けた身体で、赤系の髪色で、同じ人を想った男が目を瞠っていた。
幽体のユフォンが、驚愕していた。
「ズィー……なのかい?」
「幽体化のマカ、使えるようになった」
「……マカそのものを使えないでしょ、君は」ユフォンは呆れを混ぜた嬉しそうな笑みで言った。「よくわからないけど、ズィー、君がいるのは喜ばしいことだ。見ての通り、ホワッグマーラは攻撃されてるんだ、すぐにコロシアムに行って。そこが最前線だ」
「おう、今、行こうとしたとこっ!」
「うあっ!?」
「ぐあっ」
ズィーはユフォンに向けてスヴァニを振るった。
頭を抱えたユフォンの後ろで白雲の男が伏した。
「思惟放斬もすげぇ使える」
強張る口をなんとか動かして、声を絞り出すユフォン。「死ぬかと思った」
「半分死んでるようなもんだろ」あっけらかんとズィー。「幽体なんだし」
「君は……いいや、行って」
「おう、また後でな、ユフォン」
随分逞しくなったな、なんてことを考えながら、ズィーはナパードで消えた。
最悪だ。
勘は果てしなく深い不穏の底にセラを叩き落した。
壁に磔にされながら、セラは彼を睨む。
フェズルシィ・クロガテラー。
「あんな奴の言うこと、信じるなんて、ありえないっ!」
「別に信じ切ってるわけじゃない。すぐに結果が出そうだからさ。約束が破られたらその時また違うやり方を試せばいい」
~〇~〇~〇~
「君がこの世界から出られる方法を、俺は知ってる」
ズーデルは友達と話すようにフェズにそう言った。
「君が一番したいことだろ? どう? 俺に協力してくれれば、絶対外の世界に行けるよ」
「……」フェズは未だに訝しんで、ズーデルの真っ青な瞳を貫くほどに見つめる。「どんな方法だ? 俺を敵に回したくないから嘘言ってるんじゃないか? 司書さんだって簡単にいかないことだ」
「世界を壊す。簡単でしょ? そうすれば君は外の世界に出られる。方法は話した。どうする?」
セラは黙り込むフェズを横目で窺う。彼はただズーデルを見つめている。
「帰る場所があるから、外に出る意味があるんだよ」
「ああ、なるほど。それは俺にはない考えだ。でも、安心しなよ、俺がこの襲撃の目的を果たせば世界を造れるようになる。だから、正確には一度壊すだ。悪いね、言葉が足りなくて」
「そっか」
「フェズさん」
「フェズルシィ」
セラが、ドルンシャが、天才の名を呼ぶ。その呼びかけにフェズはドルンシャ、セラと順に視線を向けながら言う。
「帝様。セラ。そういうことだ」
「っ!?」
軽く首を傾げたフェズに合わせ、セラは大量のマカによって後方へと吹き飛ばされた。
そのまま魔素に押さえつけれらる。
「フェズ、さんっ…………!」
「うん、じゃあ、舞い花ちゃんをよろしく、フェズ。俺は君のためにも目的を果たしてくるよ」
フェズはセラを振り返る。「ああ、そうしてくれ」
「ボリジャーク。フェズがバテたら助けてあげて。言っとくけど、君より彼の方が重役だからね、もし、俺が戻ってきてフェズが死んでたりしたら、三回は殺すから、お前のこと」
「……大丈夫だ。任せてもらおう」
ズーデルは小さく鼻で笑ってドルンシャに向かって歩いていく。
ドルンシャが手に魔素を集め放とうとするが、それよりも早くズーデルが手を差し向けた。するとドルンシャの動きが止まった。
魔素の激流の中にいるセラに比べれば苦しそうではない。ただ、思うように体が動かせないようで困惑の色を浮かべている。
「さっきは殺すとか言ってごめんね、帝さん。でも大丈夫、保管場所に入るのにあんたが必要なことも実は知ってたんだ、俺。だから殺さないよ、今はね」
動けない中、ドルンシャはズーデルを睨むことしかできていなかった。
ドルンシャの元に辿り着くと、ズーデルは地面に向かって拳を振り下ろした。コロシアムの床がきれいな円形に崩れてなくなった。
「じゃ、行こうか」
ドルンシャに触れることなく浮かせ連れ、ズーデルは穴に消えた。
~〇~〇~〇~