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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第一章 ホワッグマーラの変
44/387

43:嬉しい話に嫌な予感

 ~〇~〇~〇~

 ユフォンとヒュエリはジイヤに連れられ、本棚が立ち並ぶ豪奢な部屋に姿を現した。

「ここは?」

 ドルンシャ帝により眠らされたヒュエリをしっかりと抱えながら、ユフォンは辺りを見回し、ジイヤに聞いた。

「ここは、帝居の書庫です。魔導書館には到底及びませんが」

 言いながらジイヤは傍にあった本棚から適当に一冊、抜き取った。それを、また適当なページで開いた。

「ユフォン様、『継書けいしょの栞』をお持ちですか?」

「え、はい。もちろん……」ユフォンは一枚の栞を取り出す。「禁書に?……確かに安全な場所といえば、そうですけど、そこまで……液状人間と同じことでも起きるとでも? 単純な攻撃ですよね、外の世界に出れば問題ないんじゃ? 連盟だって力を貸してくれますよ!」

「ユフォン様。白輝、今では『白雲』と呼ばれる青雲覇王率いる軍勢が狙うものは特殊なのです。この状況でも連盟にすら、明かしてはならないものなのです。なるべく情報が広がならないようにしなければいけません。お二人にも語れませんが、どうかご理解を。この襲撃は、ただの戦争でなければいけないのです」

「……」

 ユフォンの沈黙を肯定と捉えたか、それとも有無を言わせないだけか、ジイヤは続ける。

「フェズルシィ様はコロシアムの設備室に留まり、世界の入り口の制限と、予選会場を囲む障壁を張っていました。しかしどうしても大会に出場したいということで、ヒュエリ様のお知恵により分化の技術をマスターされました。彼は分化してなお、仕事をこなしておりました。予選も充分通過できるほどの力を残してです。ですが、フェズ様は分化を解いてしまわれた。狙われた故か、はたまた彼の気まぐれかはわかりませんが。とにかく、それで入り口の制限がなくなり、『白雲』攻め込んできたのです。ヒュエリ様は分化を教えた自身を責めてしまっております。お目覚めになったら、落ち着かせてあげてください。ドルンシャ様が仰られたように、彼女に責任はありません。ここまでが現状のご説明です。駆け足なことはお許しください」

 そして、とジイヤは早口ながら物腰の柔らかな口調だった今までとは様相を変え、重厚な声色でさらに続ける。

「ここからが、これからのこと。ドルンシャ様の帝令(ていれい)ですので、拒否は許しません。ユフォン様は今しがた、禁書への避難をそこまですることかとお言いになられましたが、避難するのはあなた方二人でだけではありません。全民間人です。敵を除くホワッグマーラ住人、旅客者を時間が許す限り、あなたは幽体化のマカを駆使し、『継書の栞』で多くの人命を救いなさい。大会参加者については、大会は終了、自主避難を呼び掛けていただきたい。コロシアムの魔闘士や警邏隊、それから目覚めれば当然ヒュエリ様も、協力を取り付けられる者がいれば鼠算式に増やしなさい。ドルンシャ様は最悪の事態を想定しております。それほどの敵が攻めてきているのです! それに巻き込ませないための帝令です」

「……わ、かりました」

「私もあとで加わりますが、今は失礼します」

 言いながらすでに、瞬間移動で消えはじめるジイヤ。そんな彼にユフォンは問いかける。

「どこに?」

「フェズルシィ様をお迎えに」

 ~〇~〇~〇~



 セラは『それ』の力を打ち消したフェズの登場に、ズーデルの目的は果たされないだろうと考えた。

 彼女の前に立つ男は、最高戦力だ。

 自分が出る幕もなく、終結に向かうだろう。

 それなのに、彼女の勘は、予選の最中から過る不穏な空気を払えていなかった。

 嫌な予感が、むしろ増していた。

 フェズから手を離し、「それでは」とジイヤが消えた。

 と、それにわずかに遅れて、コロシアムの客席にユフォンの気配が複数現れたのをセラは感じる。

 そのうちの一つに目を向けると、幽体のユフォンが本と栞を手に観客たちに声をかけ、その数人の観客たちと同時に本の中へと消えていった。かと思うと、再び、その近くに幽体のユフォンが現れ、今と同じことをした。また、そしてまた、同じことを繰り返す。

 慌てた様子ではあるが、適格で迅速な動き。それが避難だと気付くのに時間はいらなかった。それと同時に、セラは彼が会わないうちにここまで成長したのかと、嬉しくなった。これほどの数の幽体を同時に出現させることができるなんて。

 そのうち会場にニオザの声が響いた。

『皆様、現在、筆師ユフォン・ホイコントロや警邏隊、コロシアムの関係者が避難誘導を行っております。落ち着いて、彼らの指示に従ってください。繰り返します――』

「フェズルシィ・クロガテラー」

 ズーデルの声にセラは視線を戦場に戻し、耳からニオザの声を追い出してフェズの隣に並び立つ。

「世界に愛されし者。障壁が消えたのは、負けたからじゃなかったか、やっぱ」

「馬鹿なっ、デムジをあてがったんだぞ!」

「うるさいな、ボリジャーク。あんたもそのデムジとかいうやつのとこに、送ってやろうか?」

 黒い睨みに帝が押し黙る。

「で、()くん」

「は?」フェズがズーデルを睨み返す。「それ、俺のことか?」

「他に誰がいるっていうの? 世界に閉じ込められた、君以外にさ」

 わざとらしく辺りを見回すズーデルに、フェズは魔素を放った。それをズーデルは「おっと」と躱した。

「『太古の法』さ、長く持たないから、話してる暇、ないし」

「あーそう。残念、君にとってとっても嬉しい話をしてあげようと思ったんだけど……?」

「嬉しい話?」

「……フェズさん?」

 訝しむフェズの姿に、セラに不吉なイメージが過った。

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