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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第一章 ホワッグマーラの変
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42:女怪盗の影

 ズーデルは羽織る青雲のマントに、触れるか触れないかの距離で手をかざし、動かす。すると、彼の手に剣が握られた。

 そのまま、迫ったセラのフォルセスを受け止めた。

「せっかちだなぁ、舞い花ちゃん。まだ帝さんの答えも聞いてないのに?」

 しゃくしゃくな態度で鍔迫り合いをしながら、ズーデルは青い瞳をドルンシャに向ける。

「ねぇ、どうするの? 『それ』くれるの? それともここにいる全員、殺す?」

「そんなことはさせないさ」

 ドルンシャは小さく首を横に振ると、高々と手の平を天空に突き上げた。魔素が放たれ、あるところまで昇り詰めると、噴水の水のように広がり落ちて、闘技場と客席の間に分厚い障壁が完成した。

「あっそ、ボリジャーク、殺しちゃっていいよ、そいつ」

「ああ」

 ドルンシャは口角を上げる。「いいのかな?」

「ん? なに?」

「この世界で『それ』の保管場所を知ってるのは――」

「あんただけってだって?」

 わずかに笑んで首を傾げたズーデル。その隙をついて、セラは彼の背後に動いた。

「だから焦んないでよ」

「っ……」

 肩口から回した剣で易々と、フォルセスを防ぐズーデル。視線はドルンシャに向いたままだ。

「このコロシアムの地下は明るいよね。別の場所も、この都市の地下はそうらしいじゃない。対外的には魔素技術ってことになってるけど、ほんとにそうかな? なんで明るいのかな? 実は『輝ける者』たちと同じ原理で光ってるんじゃないかな? ねぇ、どう? 答え合わせしてよ」

 ドルンシャの拳に力が入って、ぐっと握られた。

「俺が『輝ける者』たちのパピルスの情報だけで攻めてきてると思った? 機密情報、盗まれたのもこんなイベントの時だったよね。あの犯人さ、女怪盗ナギュラ・ク・スラー。この世界の出身でしょ? 知ってた?」

「ナギュラ・ク・スラーだって……?」

「そうそう。あんたが液状人間に乗っ取られてる間に、逃げおおせた女だよ」

「なにをしたか知らんがな」とボリジャークが口を挟む。「液状人間の事件の真っ只中だったよ。ズーデルの元に避難していた俺たちのところに現れてな。マグリアの機密情報と他都市、他世界の情報収集を対価に、『夜霧』からの保護を求めてきた」

「……『夜霧』からの保護」

 ナギュラが帝居から機密を抜しみ出したことも驚いたが、なによりセラが引っ掛かったのは、彼女が『夜霧』から護ってほしいと願い出たというところだった。

 もしやと思う事柄がセラの頭にはある。確信はないが、セラが繋げられる情報のなかに、ナギュラが『夜霧』に行きつくルートがある。

 女怪盗と『夜霧』の繋がり。

 鍵、かもしれない。

 思えば、彼女がしていた黒い指輪は、異空環だったのかもしれない。

「ねぇねぇ、舞い花ちゃん」ズーデルは横目で背後のセラに視線の向けてくる。「意識が逸れてるよ? 考え事してる顔もきれいだね」

 セラはキッとズーデルを睨みながら、距離を取った。

 まるで飽きたかのように前に向き直り、ズーデルはドルンシャを見据える。

「『それ』がどこにあるかって知ってることも話しちゃったし、ほんと、殺しちゃっていいよね?」

 ぐりんと振り返るズーデル。

「まとめてさっ!」

 ズデールから、さっきグースを吹き飛ばした陽炎の塊がセラに向かって放たれた。

「避けてもいいよ、舞い花ちゃん! うしろのみんな、死んじゃうけどね!」

 ドルンシャが作り出した障壁を無視するような言葉。だが、セラは彼の言葉に嘘がないだろうと思った。おそらく『それ』の一つのものと思われる力ならば、いくらドルンシャの魔素の壁と言えども、意味をなさない可能性の方が高い。

 しかしどう対処する。

 セラはグースの姿、気配を思い返す。

 一撃で虫の息だった。

 かといって障壁のマカを盾にしても、役に立たない。

 打つ手、なし。

 想造の力くらいか……。

 無為な期待だ。

 古の力はヴェールの輝きすら届かない意識の底で、深い眠りに就いている。

 一か八か、受けるしか、ない。


「太古の法」

 

 静かな声が、響いた。

 空気を読まないその声と老紳士を共だって、セラの前に現れたクリアブルーの髪をなびかせる天才魔闘士。

 現代ではありえない、セラとは違うが古の力を、彼もまた持っていた。

 第一世代のマカ。

 マカと呼ぶのは便宜上だろう。

 空気中の魔素を自在に操る、魔素に満ち満ちたホワッグマーラ最強の技術。

 陽炎は、魔素に手なずけられた。

「液状人間の時は結局最後だけだったからな、今回はちゃんと参加させてもらう」

 フェズルシィ・クロガテラーはどこかむくれながらも、しかしおもちゃに囲まれた子供のような顔でそう言った。

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