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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第一章 ホワッグマーラの変
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40:覇王が狙うもの

「あ、グースさんもいるじゃないですか? 元気ですか? 元気ですか?」

 わざとらしく気づくズーデルに、グースはただ見据え返すだけだ。

「無視すか? ひどいなぁ……」

 視線と声の調子を落とすズーデル。彼の足元には、煌白布と地味なマントが落ちている。

「昔のよしみで優しくしてやろうと思ったのに――」

 顔を上げるズーデル。

「残念っ!」

「ぐわぁっ……がぁぁあっ……」

 グースが陽炎の塊に押され、コロシアムの壁に消えていった。土煙の中、彼の気配は死の間際だった。

「うーん、死なないのか」あっけらかんとして、両手を開けたり閉じたりするズーデル。「やっぱそういう力じゃないのか」

「伯父さん……」セラは目を瞠りながらも、視線を向けずに伯父に言う。「グースをどこか安全な場所に」

 グースの命だけでなく、伯父の命も救う言葉として口にしたセラのその言葉。ゼィロスも真の意味で理解したようで、二回のナパードでコロシアムから離れた。

 ズーデルの横で、黒い髪の男が聞く。貴賓席に収まっていた男だ。

「逃がしてよかったのか?」

「うん、構わないよ。いつでも殺せるし」

「そうか。それで、あれが噂の『碧き舞い花』か? どうするんだ、予測不能の危険分子なんだろ? 行方知れずだったはずなんだろ? 計画には含まれてないんだろ?」

「うっさいなぁ。俺なら大丈夫だから。ほんとは自分でやるつもりだったけど、ボリジャーク、お前が帝の方やって」

「重要な部分を他人に委ねるのは嫌いなんだろ?」

 ズーデルが重く迫力のある声を軽く言い放った。「死にたいのかな?」

「……すまない、王よ」

 ボリジャークは圧倒され、身を引きそうになるが、それを堪えてセラから少し離れた場所にいたドルンシャに向かっていった。

 ドルンシャはすでに顔に切り傷があった。服も土で汚れている。

「任せてくれて、光栄だ」

 ボリジャークという男の力量はドルンシャに肩を並べている。普通に戦えば勝敗は五分だろう。しかしとセラはコロシアムを一瞬見回す。観客たちは不安げな表情でコロシアムの中を見つめている。大方が席を立っているところを見ると、避難を試みていたのだろう。しかしその最中に帝二人と異世界人が続けざまに四人姿を見せたことで、どうするべきなのかすら考えられないほど思考が混雑し、停止してしまったのだろう。

 彼らに被害が出るような戦いをセラもドルンシャも取れない。偉大な魔闘士でもあるドルンシャの実力への懸案はないが、それが心配でセラは彼を呼ぼうした。

 だがセラよりも早くボリジャークが声を発する。

「ドルンシャ。客たちを無事に帰したいのなら、俺たちに従うべきだ」

 強い眼差しを返すが、ドルンシャ帝は口を開かない。ボリジャークの二の句を待っているようだ。

「『それ』を差し出せ」

「なっ!」

『それ』。その言葉が、ドルンシャの身に着けているなにかや、近場にあるものを示す言葉ではないことを、セラは考えるまでもなく察した。特別な意味合いを含めてボリジャークが口にしたということ、ドルンシャが異様な驚きを見せたこともあるが、彼女は知っているのだ。

『それ』と称される三つのものを。



 ~〇~〇~〇~

「ヴェィルが破壊の対象にしている世界は、あくまでも神がいる世界です」

 フェルはセラとゼィロスに向けて、人差し指を立てて見せた。

「まず、世界には四つ種類があります。第一に、時軸誕生と共に生まれた世界、および、のちに自然発生した世界。太古の地やエレ・ナパスはこれです」

 続いて中指も立てるフェル。

「第二に、想造の一族が第一の世界を真似して造った世界。これが神がいる世界。世界を造った想造の一族は神となり、想造の一族ではなくなった」

 ゼィロスが深く頷く。「それがさっきの、太古の地での大戦争のきっかけといわけか」

「ええ、先ほど話した通りです。ですので、それは省きます」

 今度は薬指が立つ。

「第三に……実を言うとこの第三の世界に関わることが、ヴェィルが破壊しないということ以外でも重要になってくるので話しておきたいのです」

 上げていた三本の指を手ごと下して、フェルはセラとゼィロスを真剣な目を向ける。その視線に二人が小さく神妙に頷くと、続ける。

「太古の地より旅立った者たちの中には、神にならなかった者もいます。それが遊界の民と呼ばれ、次第に想造の力を失い、第一の世界、第二の世界に沿った進化を遂げた者たちです。このとき定住せず、長く遊界していた者がたちが渡界の民となりました」

 ふぅ、と一息吐くフェル。

「すいません。お二人がそうであるので話しましたが、渡界の民は蛇足です。第三の世界に関わるのは、定住し、進化してなお、遊界の民の意識が強い時代、未だ太古の記憶を留めていた時代です。神となった者がそうだったように、彼らも世界創造の真似をしました。想造の力なくして成し遂げるため、あらゆる技術を複合させ、創造を再現する『それら』を完成させました」

 セラは噛み砕くように呟いた。「それら……」

「名前はありません。『それら』は三つの『それ』の総称です。あまりにも強大すぎた『それら』の力が定着し、広まらないために名前は消され、それぞれが別々の場所に保管されることになりました。『それら』を用いて造られた世界のうち、三つの力ある世界に」

 〇~〇~〇~〇

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