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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第零章 舞い戻る碧き花
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4:七色の集合地

『夜霧』の急襲から間もなく二年が経つ。

 人種の坩堝(るつぼ)として、賢者評議会の本拠を置いていたスウィ・フォリクァの姿はもうない。

 現在七色の薄極光に照らされるのは、連盟の本部と訓練施設、そしてわずかな職員の住居のみ。

 ただっ広い大地には多くの余白を残し、大衆生活が根付いている様子はない。キノセ・ワルキューはこの地を訪れるたびに、屋台群から漂ってくる食欲を掻き立てる香ばしさがないのを寂しく思っていた。

 異空のための各世界の集まりは賢者評議会から異空連盟に名を改め、組織としての形も様変わりした。

 本部長をはじめとした職員たちの常駐による運営。

 多くの参加表明者が各自の世界を拠点とするようになり、会議や作戦の決行のための集合地や訓練の地となった。そのためスウィン(七色の)バザディクァス(集合地)とも呼ばれるようになっていた。

 キノセも今回、召集の連絡を受け、赴いたのだ。

「第一部隊ってだけでも厄介なのに、ヌロゥが付きっきりで拷問か……。無謀だな」

 会議室でテム・シグラからここまでの経緯を聞き終えると、キノセは大きく息を漏らした。

「てか、ユフォンのやつよく生きてんな」

「殺さないようにいたぶってるって」テムが顔を顰める。「治療すらしてる。やっぱり狂ってるよ、ヌロゥは」

「さすがに執心されてんな、ジルェアス。で、今の状況はわかった。作戦は?」

「うん。ヌロゥがいない間を狙いたいのはやまやまだけど、今話した通りだから奴との戦闘は避けられないって考えてる。奴との戦いには何人か必要だし、そのうえ第一部隊は精鋭の集まりだから、なるべく多い人数でそれも師匠も含めて行きたいと思ったんだけど、やめた」

「……『賢者狩り』か。まさか『闘技の師範』までやられるとは思わなかった。未だ正体は掴めずか?」

 テムは憎々し気に首を横に振る。

「誰か一人でも目覚めれば一気に解決できると思うんだけどね。きっと敵の正体を見てる」

 キノセは無言で数度頷き、それから手を打った。

「さ、今はユフォンだ。少人数で行くとして、どうするんだ?」

「ネル姉ちゃんが作った外套を使って、俺たち二人とイソラの三人で潜入する。音はキノセが消して」

「なるほどな。だから俺が呼ばれたわけか」

「うん。ヌロゥとユフォン兄ちゃんがいるところまでは戦闘が起こらないようにする。到着したらユフォン兄ちゃんにだけに音が聞こえるようにして、作戦を伝える。ヌロゥは離れないだろうから、そこからは一瞬の仕事になる。ユフォン兄ちゃんの枷を外して、魔素タンクを渡して、ヌロゥが動く前に全員で脱出する」

 肩から前に垂れた三つ編みにした黒混じる白の後ろ髪を、キノセは指先で弄ぶ。

「なるほど、簡単な仕事だ。誰が空気を? さすらい義団に依頼するのか?」

「嫌味言わないでよ、ヌロゥに空気の動きで気づかれるのはわかってる。戦闘が避けられないのも、そうなったらユフォン兄ちゃんとキノセがほとんど役に立たないこともね」

「嫌味を返すなよ」

「……」テムは黒髪を掻き上げる。「ごめん、師匠のことで気が立ってる。……集中しなきゃ」

「大丈夫かよ、お前がそれじゃイソラはもっとだろ? てかイソラが今来てないのって、気持ち的な理由じゃないだろうな?」

「いや、うん、まあ……だから、瞑想してる」

「瞑想ね。やっぱさすらい義団に頼んだ方がいいんじゃねえか?」

「大丈夫だよ。そのための瞑想なんだから」

「はいはい。で、ヒィズルコンビがヌロゥと戦ってる間に役立たず二人が逃げるのか?」

「まあそうなるね」

 キノセは五線の瞳でテムを窺う。「投げやり、じゃないよな?」

「もちろん、策はある。だからキノセはユフォン兄ちゃんとしっかり逃げてくれよ」

「……」

 値踏みするように瞳を細めるキノセ。テムの言葉と表情に嘘はないと感じ取ると頷く。

「了解、策士くん」

「うん。じゃあ、地図を見ながら経路を確認しよう」

 テムは言うと、部屋の中央に手をかざして影光盤を出現させた。

 二人はそこに映し出された地図を見ながら、ユフォン・ホイコントロ救出作戦の詳細を詰めていった。

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