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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
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366:時の樹の果実

 ジュランが攻撃を仕掛けている最中、アレスはスジェヲから距離を取り、丘の陰から覗いた機械人間の姿を見た。気配を探るとチャチのものがあった。ΑΩ(アルファオメガ)の最終調整をするためにジュコに残っていたはずだが、他の仲間たちのように跳ばされてきたようだ。

 ΑΩの調整は終わっているのだろうか。あまりいい記憶ではないが、仲間として戦場に来ているのなら頼もしい限りだ。そしてなにより、同じ機脳同士で繋がれるというΑΩを頼れば、友の安否がわかるはずだ。

「おい、ねえちゃん。またよそ見かよ!」

 ジュランがスジェヲと攻防を繰り広げながら、アレスが動いていないことに気づいて声を上げた。アレスはチャチの気配を頼りにこの戦線を離れることにした。動き出した彼女が背を向け離れていくの見て、ジュランは戸惑いを交えて呼び止めてくる。

「おい……おいおい、どこ行くんだよ!」

「悪い。あんたはいい男だよ。けどおれの趣味じゃない」

「って、おい……くそっ!」

 ジュランがいくらやり手の戦士だろうとも、スジェヲは気を抜いて戦える相手ではない。負担を大きくしてしまうことに少々申し訳なく思いながらも、アレスは走る。途中、戦いの中で生まれた包帯兵を斬り伏せながら。



 サパルと別れたルピは山の地中に気配を感じ、扉を開いた。術式で守られた空間に三人の隠密がいた。



 気配を消す装置、仕組みを持つのは連盟だけではない。

 トトスの森の中、グース・トルリアースは張り巡らせた障壁の中、想造の民の念波を集めることによって影光盤に映し出した各地の戦況を観察していた。

「包帯兵も順調ですね、髑髏博士」

「なかなかに、骨の折れる作業ですがね……」

 同じ障壁の中で、クェトは包帯をエレ・ナパス中に張り巡らせている。顔は頭蓋の仮面で見えないが、声から察する疲労は大きそうだった。総代に力を付与されているとはいえ、元来想造の民ではないために、負荷は大きいのだろう。

「とりあえず、ここに気付いているやつはいないみたいだな」

 そう言いながら障壁を抜けて入ってきたのは、コゥメルだ。グースは頭を軽く下げる。

「気付ける人材は向こうにもいますが、そのほとんどは封じてありますから」

「ほとんど? グース、お前にしてはぬるいんじゃないか? 誰だ? 誰ならここに辿り着ける可能性がある。俺が始末してこよう」

「可能性があるのは――」



 テムを見送ってしばらく経った。イソラは王城に目を向ける。まだフェズが動く気配はない。テムの気配は戦えないほどではないが、弱っていた。

「イソラ!」

 コクスーリャが咎めるような声に呼ばれた。イソラははっとして、包帯兵の攻撃を躱して蹴飛ばした。

「あっ!」

 イソラは咄嗟のことに蹴る方向を見誤ってしまった。包帯兵が跳ばされた先にはハツカがいた。

「わっ!」

 イソラの声、意思に気付いたハツカは身体を無理に捻って包帯兵を避ける。その最中、彼女の手が兵の首に巻かれた包帯に触れた。

「っ!」

 ハツカが目を見開いた。姉がなにを感じ取ったのか、イソラにはすぐにわかった。

 そして二人は声を揃える。

「「見つけたっ!」」



 ハツカは包帯に触れた瞬間に、クェトの玉の緒を感じ取った。一瞬だったが探していたこともあって、彼女はすぐにその元を辿ることができた。

「も、んぐっ!?」

 森の中。トトスの森に髑髏博士がいる。その事実を周囲に伝えようとしたところに、急に口を手で塞がれた。全く気配を感じないまま、目の端に緑の閃光が入り込んだのだ。

「危うかったな。だが、さすがと褒めるべきだろう。上々の分析だ、グース。本当に包帯からクェトの居所を探り当てるとは」

 ハツカの口を後ろから抑え込む男を見て、イソラが声を上げた。

「誰っ!」

「俺はコゥメル。お前らを破滅させる者だ」

「ハツカ!」

 イソラは聞いておきながらコゥメルを半ば無視して、ハツカに向けて手を伸ばした。すると天鹿によってハツカの身体はイソラの方へ引き寄せられる。だが引っ張られるだけで、動かない。

「強い繋がりだが無駄だ」

 コゥメルがハツカを片手だけで抑えたまま、反対の手を前に出した。そしてその手に透明な宝珠を出現させた。ハツカの耳元で言う。

「お前はザァトの子だそうだな。つまり半神。半分は神ということ」

「っんん!」

 ハツカは身じろぎするが、単純に力だけで抑え込まれているわけではないようだった。全くびくともしなかった。

「この『時の樹の果実』の範囲に含まれるということだ」

 宝珠が、眩く輝いた。

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