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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第一章 ホワッグマーラの変
37/387

36:表立つ

 試されているようだった。

 決して相手が上手の者というわけではない。むしろ、ソルーシャはセラより実力が下だった。

 それなのに違和感が禁じ得ない。

 セラは気になって攻撃の手を止め、ソルーシャから身を引いた。

「どうした、続けろよ」

 続けろ。

 その言葉が意味するところはセラにはわからない。だが、これ以上の戦闘は避けるべきだと考え至るには十分だった。

 セラはソルーシャを睨む。「なにを企んでる」

「色々だ」と不敵な笑みが返ってきた。



「俺の戦闘の癖を見ているな」

 荒野でブレグは二人の敵を睨んでいた。

 一人は手の甲に黒い目の紋章を刻んだ、黒く透き通った髪を持つギルディアークの魔闘士。

 もう一人は頭蓋が螺旋状の男だ。不敵に笑み、頭にある溝に光を走らせていた。



 艶やかな地層に囲まれた大渓谷。

 モァルズは汗を垂らす。風通りが悪く、蒸し暑い。

 早くこの戦闘を終わらせたい。

 ただ暑いだけなら、苦ではなかった。鬼教官である祖父の訓練に比べればどうってことはない。

 対峙する相手が異様で、冷や汗が混じる。不敵な笑みが不気味でならなかった。

 祖父ヅォイァから受け継いだ相棒ヅェルフを振るう。

 敵は軽く腕で防いだだけで、反撃をしてこない。さっきから避けられる攻撃もわざと受けているようだった。まるで訓練用の木偶人形を叩いているような感覚だ。

「……本気でやってくださいっ」

 彼女のその言葉にも、ただ不敵な笑みが返ってくるだけだった。



 海底遺跡にかつかつと二つの足音が響く。

 その近づきに気づき、ズィーたちが目を向けると、そこには『髑髏博士』と頭が螺旋頭の男がいた。

 クェトが言う。「実体につられて、幽体が現れるとは想定外でした。それも幽体の方が強いとは」

「あ! お前っ!」ズィーは頭蓋骨のマスクを指さして、吠えた。「『夜霧』の!」

「お久しぶりですが、その幼さを残した姿と会うのは初めましてですね、『紅蓮騎士』」

「『夜霧』」ジュメニが眉を寄せる。「厳重な入界検査があるはずだぞ!」

「入られてしまったことへの思考は、もう遅いというものだぞ」螺旋頭が嘲笑う。「ジュメニ・マ・ダレ」

「そうですね」クェトが頷く。「対策は彼らの攻撃を凌いでからにするべきです。今は侵入者そのもへの対処をするべきでしょう」

「ご高説どうもっ」

 ジュメニは剣を抜いて、クェトに飛び掛かる。だがその攻撃は螺旋頭の手によって受け止められた。

「なっ……」

「俺が相手だ、ジュメニ・マ・ダレ」

「それでは、僕は幽体の『紅蓮騎士』を一目観察しておきたかっただけなので、これで」

 クェトはゆらゆらとその姿を薄くしていく。

「ソルーシャ、勤めもそこそこに。最後まで付き合う必要はないですからね。戻ることを一番にしてください」

「かしこまりました。博士」



 一方コロシアムでは観客たちが、訝しむ声を上げはじめていた。

「おい、なんかあのぐるぐる頭、いろんなとこにいないか?」

「大会側のてこ入れとかじゃないのか?」

「なんか不気味ね」

「ねぇ、それよりさぁ、あれって『紅蓮騎士』様じゃない?」

「はぁ? 馬鹿なこと言うなよ。『紅蓮騎士』って死んだだろ。『碧き舞い花』でユフォン・ホイコントロが書いてたじゃんか」

「創作じゃないの? 全部がほんとじゃないんでしょ?」

「てかさ、参加者の表にフェズルシィ・クロガテラーなんてあったか?」

「ああ、俺も思った。オッズにもなかったよな、名前」

「運営のミスじゃね? あの天才の存在はどうやったって忘れない」

「その天才くんだけど、なんかピンチじゃない?」

「そんなことなわよ。囲まれてはいるけど、フェズ様はそんなヤワじゃないわ」



 ――古城。

 寂れ、ひび割れが目立つ壁や床。植物の蔦がそれらと共演している。

 そこは帝都ギルディアークの郊外に位置する古城。

「ん? なんだよ、お前ら。俺はギルディアークの魔闘士と戦いたいんだ。邪魔するなよ」

 フェズはギルディアークの魔闘士とともに移動したそこで、白雲を思わせる装束に身を包んだ大勢の戦士たちに囲まれていた。

 肩を組んでいた黒ずんだ青髪の男は、フェズから離れて正面に立った。

「数いる要注意人物の中でも、クロガテラー、お前は真っ先に処分しなきゃいけないんだ。大人しく世界のために籠っていればよかったのによぉ、出てきちまったら駄目だろ? まあおかげで、引きずり出したり、潜入したりのまどろっこしい手間が省けたんだけどな」

「は?」

「でもよぉ、どうして出てきてるのに結界が作動してるんだ? っつってな、んなことには興味ねえんだ。どうせあと少しすれば、消えるんだしよぉっ!」

 魔闘士が黒煙交じりの火炎をその手に、フェズに飛び掛かってきた。

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