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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
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364:所縁ある者たち

 封印を解くことを得意とする鍵束の民は、眠りを邪魔されないため封印されている仲間たちを起こすために異空を回っていた。

 そんな折だった。黒い輝きに包まれて、気が付いた時には戦場となったエレ・ナパスを見渡していた。リョスカ山の山腹だとわかった。

 隣でルピが言った。「なにが起きたの?」

 サパルはすぐそばでめくりあがった山肌を見上げながら応える。

「はっきりとしたことはわからないけど、跳ばされたんだ」

『サパル!』

 急に頭の中に女性の声が響いた。それは友が悪魔を抑え込んでいたとき、一度だけ聞いた声だった。

「タェシェ?」

『エァンを助けて!』

 理由はわからなかったが切羽詰まった彼女の声に、サパルはすぐにエァンダの気配を探った。そして見つけるとすぐに鍵を一本束からちぎり取り、共にいたルピとポルトーに目を向ける。

「二人とも、俺は行く。二人は――」

「自分らで考えるさ。早く行け」

 ポルトーは顎をしゃくって、エァンダの気配のある方を示した。もう察しているらしい。

「ああ」

 扉を開き、サパルは友の元へと向かった。



 エレ・ナパスの丘だった。異空船ごと急に跳んで、不時着した。

 船内で搭乗者の安否を確認してから、起こしたばかりの賢者や戦士たちと共に降りると、ズィードは目を疑った。エレ・ナパスが戦場になっていた。

「とっても本格的な訓練、ってわけじゃなさそうね、ズィードくん」

 隣に来た黒に近い青髪を後ろで一括りにした女性が、凛としながらもお茶目に肩を竦めた。

「せっかくズィプくんとセラちゃんの故郷に来たっていうのに、残念なわたし」

「シズナさん、そんな暢気なこと言ってる場合じゃないっすよ」

「力み過ぎはよくないよ、ズィードくん。団長としてずっしり構えてなさいな」

 ゆったりとした動作で、左手に携えた刀に右手をかけるシズナ。普通の剣士ならばここで鯉口を切るのだろうが、彼女はそうしない。

 左手を離し、鞘に納まったままの刀をその場で大きく振り抜いた。

 離れた場所で何人もの連盟の戦士が倒れた。その合間合間にぽつりぽつりと呆気にとられた戦士たちが残り、立ち尽くして辺りを見回していた。

 ズィードは驚くばかりだ。「なんで!? なんで仲間をっ!!」

「心外よ、ズィードくん。わたしを人斬り狂人みたいに言わないで」

「シズナちゃんが斬ったのは、よくない波を発していたやつらだよ、ズィード」

 少々枯れた声で、日焼けした男が言った。『相乗りの波乗り師』サロバチュー・ケルムィだ。

「敵にでも操られてたんだろうね」

 言いながらシズナと肩を組もうとするサロバチュー。しかしシズナはすっとそれを躱す。

「普通に操られていただけなら、わたしも斬り捨てたりなんてしないよ。彼らはすでに死んでいた」

「死んでた?」

 ズィードが混乱しかけていると、ソクァムが空から降りてきた。今までピャギーとシァンなどと共に、エレ・ナパスの状況を上空から確認していたのだ。

「たぶん髑髏博士だ」

「誰?」

「……」ソクァムは溜息を吐く。それから諦めたように小さく笑った。「ズィード。誰かなんてどうせ教えても覚えられないだろ?」

「むっ、馬鹿にしてんな。確かにその通りだけどさ。で、そのなんとか博士ってのがどう関係してんだ?」

「簡単に言うと、包帯で死人を操る。殺された仲間が敵になってるってことだ」

「なんだよそれ! 人がやることかっ?」

「実際起きているならば、受け入れるのが正しい判断だ。ズィード」

 そう会話に入ってきたのは、リョスカ山の方を向いた、癖のある長髪の老人だった。『念波の賢者』フィプ・ネェイツァリだ。

「輪を乱すようで悪いが、俺は行く」

「ノリ悪ぃなフィプ老」

 サロバチューがフィプに歩み寄り、肩を組もうとするが、これもまた躱される始末だ。

「っんだよ、一緒に船旅楽しんだ仲だろ」

「船旅は、ともかく」と気弱な顔の女性がおずおずと山を指さして言う。「そっちの方はあまり行かない方がいいと思います、けど……」

「お気遣いありがとう、ムム女史」フィプは振り返り笑う。「しかし向こうに旧知の男がいてね。久方ぶりに顔を見たいんだ」

「そう、ですか……」

「不安かね。では――」

 フィプは近くにいた逞しい上裸の男に目を向けた。

「――ババン。俺と一緒に来てくれ。実力もそうだが、君なら飛べるし移動の便も立つ」

「ババン、わかった、行く」

 ババンは頷くと、その身体を翼竜へと変えた。その背中にフィプが乗り込むと、二人は空高く舞い上がってリョスカ山へと向かっていった。それを見送ると、ズィードはそばにいる者たちに聞く。

「他に用がある人は?」

 すると女性が一人、艶やかに手入れされた爪に彩られた手を上げて軽く振った。ミロロ・チュア、『鏡磨きの職人』だ。

「わたしたち戦えない人間からしてみれば、逆に用がないってカンジなんだけど?」

 ミロロが言うと、チリサンや『桃源老師』カイエンなど、戦闘に身を置かない賢者たちが同意を示していた。

「あー……」

 ズィードがどうするかと答えを探しているうちに、包帯を巻いた兵士たちが義団の異空船に向かって迫りはじめていた。

「船の中にいてもらえばいいんじゃない、団長くん。どの道、護るでしょ、船」

 そう言ったのはつぶらな瞳の新人だった。

「なんなら団長くんも休むべきだと思う。傷、治ってないんだから」

「モェラお前。傷つけた本人が言うかよ、それ」

「本人だから言ってるの……これで死なれたら、わたしのせいにされかねないから」

「しねぇよ。つーか死なねえよ。『紅蓮騎士』舐めんな」

 そうズィードが言った瞬間だった。彼の背中で紅き花が舞った。

「えっ……?」

 ハヤブサが鞘を残して消えていた。

「スヴァニも休めって言ってるんじゃないか」

 ソクァムが冗談めかして笑った。

「なんでだぁー!!」

 ズィードの叫びは戦場に響き渡った。

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