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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
356/387

352:疎通

 花びらたちによってついた傷を治した。

 大したことはない。

 なのに……。

 色とりどりの花たちに傷つけられると、心がきゅっとなった。

 なんだというのか。



 簡単に傷は治された。それでも想造の力は使わせた。充分だ。

 セラは振り向いたディンと目を合わせる。彼の目は憎しみに満ちているが、その中に困惑や戸惑いのようなものを織り交ぜて細めているように見えた。

 感じる気配に大きな変化はない。思考に乱れもない。粒子の流れも、正常だ。特筆してなにか起きたわけではないが、その目の意味するものはなんだろうかと、セラは訝しみ、警戒する。

「なんで、姉さまは……」

「?」

 口を開いたディン。その続きを待ったが、彼は口を閉ざしたままセラに向かってきた。そちらに気を向けながら、セラは耳がわずかに捉えた水の音に、水面に目を向けた。

 黒粒子だ。

 水面をかすかにだけ揺らし、セラに向かって飛び出してきた。うまく制御されている。仮にディンが喋り続けていれば、その声で気付かなかったかもしれない。

 粒子に対して魔素を放ち到達を遅らせると、ディンの一太刀を受ける。その途端、粒子の剣を受けたフォルセスがセラの手元から靄と共に消えた。

 下から粒子、正面にディン。せめてディンを跳ばしてから粒子を迎え撃とうとしたその時、彼女はナパードができないことに気づく。呪いのことを忘れたわけではない。確かに今、彼女の手元にはフォルセスを跳ばされたことによって生まれた靄が残っていた。そんなことはセラだって承知のこと。できなくなっていたのは、自分以外を跳ばすナパード。さっきはできていたことだ。

 戦いの中で性質を向上させたか。セラは咄嗟にオーウィンを振るう。呪いは消えたフォルセスを呼び戻すことも封じていた。

 ディンの二の手を防いだセラ。しかしそこまでだ。彼女はディンと共に粒子に飲み込まれた。



 粒子に傷つけられる中、セラの視界をそことは別の光景が支配した。

 背の低い視点。

 子供の視点だ。

 その視線の先には二人の背中があった。

 真っ白な髪の男と、朱と桃が交互となった長髪の女。

 視界には伸ばす腕があった。二人の背中に伸ばす腕。

 二人は振り返ることなく。

 子供から離れていく。



 不意に黒の粒子の中に戻った。呪いが消え、彼女はそこから抜け出した。

 地底湖の湖畔に降り立って、瞳を閉じる。想造の力で傷をなくす意味もあったが、姿と気配を潜めたディンを探る意味もあった。

 そんな中セラは、涙を流していた。

 目を開け、頬を伝った涙を拭う。

 今見た光景はディンが過去に見たものか。それとも彼の今の感情か。とても悲しい想いが、セラの中に流れてきた。

 ヴェィルとルルフォーラが自分を見てくれていないと言っていた。セラばかり見ていると。

「なにを泣いてる? そんなに痛かったかよ、姉さま!」

 背後に現れたディンの剣を、振り向きざまに呼び戻したフォルセスで受け止める。

「痛いのは、ディン、あなたの心でしょ」

「なに?」

「家族がほしかったんでしょ」

「なにを」

「今、粒子の中でヴェィルとルルフォーラの背中を追うあなたの想いを見た。ねぇ、もしかしてさっき、わたしの花に斬られて、なにか見た?」

 あの攻撃ののち様子が変だと感じたのは、きっとそういうことだったのだろうと推測して、セラは確かめる。

「っ……ふんっ」一瞬表情を歪めたかと思うと、ディンは鋭く笑った。「ああ、見たよ、姉さん」

 ディンが足を踏み鳴らした。一瞬黒が広がって、それから二人はエレ・ナパスのミャクナス湖畔で剣を交えていた。想造の力で造り出された景色だ。

 そしてセラの耳に赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

「生まれてすぐ、姉さんは本当の両親と触れ合う機会を失った」

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