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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
339/387

335:想いを紡ぐ翼

 感情を持たないというオルガにきっかけを探すのは難しかった。玉の緒をオルガに向けて伸ばしてみるも、引っ掛かる雰囲気はない。ただ、そうするハツカに対してオルガから反応がないところを見ると、玉の緒はオルガにも感知できないらしい。

 ハツカだと気付かれる前に、ムェイへ繋げる。

 だがその前に、チャチたちだ。

 秘伝で出した花びらの蛇の一匹をチャチたちの方へ向ける。その蛇の腹にはサィゼムが隠れている。中が見えているのなら、オルガを小人たちから遠ざけるにはちょうどいい。

 ハツカの思い通り、小人を囲むオルガたちは碧き蛇に触れないよう、跳び退いた。小人たちの周りで蛇にとぐろを巻かせる。ずっとそうしていればチャチたちを護れるのだろうが、そうもいかない。影の秘伝は体力の消耗が激しい。

 チャチたちからムェイのアップグレードプログラムを受け取ることもできるが、オルガがそれを見逃すわけがない。壊されてしまえば、元も子もない。

 だが、ハツカ自身オルガと繋がれる方法を簡単に見つけられるとは思えない。機があるなら、試すべきか。

 ハツカはそう決めると、花びらを消し、宙に舞ったサィゼムの元へ跳んだ。そして彼女がヒバリをその手に納めると、さっき退いたオルガたちが一斉にハツカに向けて手を差し向けてきた。

「やばっ……」

「感情的になっている。お前はムェイではないな。ハツカ・イチか」

「あぁ……ははん?」

 ぎこちない笑みを浮かべるハツカ。意識の底でムェイの溜め息が聞こえた気がした。



「ごめん、ムェイ……バレちゃった」

 意識の底に降りてきて、乾いた笑いと共に謝るハツカ。

 ムェイは無感情に返す。

「まああれだけハツカが前面に出てればね。でもさすがにこんなに早いとは思わなかった」

「ええっ、それって最初からバレるって思ってたってこと!」

「相手が相手だからね。時間の問題だった」

「……むぅ、なんか機械みたいだよ、ムェイ。怒るのはわかるけど、そういう態度はないんじゃない?」

「ごめん。オルガと繋がることを考えたら、機械的になったほうがいいから、その方向で集中してた」

「……そっか、ムェイが言うならそうなんだろうね。それで、どうする?」

「うん、ちょっと考えがある。身体、わたしが動かすから、ハツカはわたしの合図で玉の緒をオルガに繋げて」

「わかった」


 ムェイは意識を表層に戻した。

 包囲され、砲撃間近。チャチたちを護るために周囲を花弁の壁で包む。衝撃が碧き壁を激しく揺らす。

「ムェイ、今のうちにアップグレードを!」

「ううん。アップグレードはあとでゆっくりするよ、チャチ」

「え、でも、それではオルガに……」

「勝てるよ。だから大丈夫」

 チャチに笑いかけると、ムェイは左手に握られたサィゼムを見る。それから右手のレヴァン。

 ずっと考えていたことがある。

 ハツカの握っていたサィゼムにナパードと玉の緒の神の力が宿ったのなら。レヴァンにもムェイを象徴する力が宿る可能性が考えられる。ただ心配なのは、別の者の手に継承されたことが、力が宿る条件なのではないかということ。ズィーからズィードに託されたスヴァニも然りだ。

 これに関しては機脳にもその答えはない。想いの部分が起こす現象だ。

 だからこそ、強く想う。

 なにを想う。


 ――わたしの感情を揺さぶるものは。


 アレス。

 助ける。

 応える。

 昂れ、感情。

 計算は度外視だ。

 機械的にとしていた集中を手放す。感情の爆発を、機脳に走らせる。

 走れ。

 走れ。

 走れ!

 ムェイの中を碧き閃光が走る。迸る。縦横無尽に。

 頭が熱い。

 心も、熱い!

 周囲を護っていた碧き花の壁が上の方から散っていく。徐々になくなる壁から現れたムェイの目を見て、オルガは目を瞠った。

 恐れだ。

 ムェイの感情に恐怖した。

 計算を超えた想い。

「ハツカが言ってたでしょ。お姉さんを甘く見ると、痛い目見るかもって」

「想定内だ。お前が計算を超える感情の昂りを見せるのは」

「強がらなくていい。未完成なんだから、足りない部分はある」

 正面のオルガが叫ぶ。「ありえないっ!……っ!」

 オルガは自分自身に驚いた様子で、口をつぐんだ。

「知らないだけで、やっぱりあるんだよ、感情」

「違うっ。いまのはっ、感情の真似事だ」

「狼狽えちゃって。可愛い弟」

「ふざ……それがどうした」急に冷静を装って、オルガは続ける。「不備はあとで自己修復する。どのみちお前では俺には勝てないのだから、焦る必要はない」

「自分に言い聞かせてる?」

「……」

「ぼろを出したくないからだんまりってこと?」

 ムェイは肩を竦める。

「躾が必要ってことね」

 ムェイはまだ残っている下の方の花びらたちをオルガに差し向ける。その時彼女が伸ばした右手に握られるのは、刀身がなくなり、柄だけとなったレヴァンだった。

 成功したのだ。

 想いにレヴァンが応えてくれた。

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