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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
338/387

334:交替

 アップグレードは、今すぐには必要ないかもしれない。

 ムェイはチャチたちの方へ駆け出すのをやめ、身を翻しながらサィゼムをオルガに向けて振るった。それをオルガは躱す。サィゼムの力は知らなかったようだが、触れてはいけないと、やはりすでに気付いている。

 サィゼムはハツカの力を宿している。

 さっきのはオルガの視界だった。すぐそばにいるオルガ。小人たちを囲むオルガ。この場を囲むオルガ。機脳が身体であるオルガを通して見ている光景をムェイも見たのだ。

 玉の緒の神の力が作用して、ムェイとオルガは一瞬だが繋がったのだ。

 今のは不意だったから流されるままだった。しかし次は自分からさらに奥まで入り込める。

 オルガの身体に触れればいい。

「方法がわかっているのだ。触れさせなければいい」

「そうだけど。身体が多いのが(あだ)になるかも」

 ムェイは笑って、外周のオルガの一機に向け、サィゼムを投げた。

「その移動も計算の内だ」

 ムェイは投げたサィゼムの元へ跳んだ。花ではなく、雲が舞う。呪いのかかった今、この行為はそれがナパードではないと証明するようなものだった。けれど、これはアレスのナパードだ。エァンダがなんと言おうが、呪いの範疇でなかろうが、正真正銘アレスのナパードだ。異論は認めない。

 現れた先にいたオルガに向かってレヴァンを差し向ける。レヴァンへの警戒が弱くなったわけではないのだろう、これまでとなんら変わらず、オルガは身体を流動させて無駄な動き一つせずに回避した。

 躱されるのはわかっていた。ムェイは二の手でサィゼムを振るいながら、それを影の秘伝で隠した。

「目くらましなど意味がない」

「そう?」

 ムェイの手元を隠した花びらたちは一気に四方へと、蛇のようにうねって飛び出した。そして現れたムェイの左手にはサィゼムは握られていなかった。

「四つのうちどれかに隠したか。しかし無駄だ。俺の目には見えている」

「ふぅん。わたしは見えないけどなぁ。それにさ、お姉ちゃんを甘く見てると、見るのは痛い目かもよ」


「ちょっとハツカ。口調!」

 ムェイは意識の底で、努めて感情を揺らさないように、姉妹に怒る。対する瞳を閉じたハツカは悪びれた様子もなく、にししと笑う。

「もう……」ムェイは溜息交じりに言う。「せっかくオルガにも感知されない場所にもう一人の意思が入って好機なのに。バレたら意味ないんだよ?」

「それはわかってるよ、わたしだって。でもイソラの方、いま退屈でさ。はしゃいじゃったの。ごめん」

「わかってるならいいんだけど。ちゃんとやってね。相手が一人を相手にしてると思ってる間に片をつける」

「わたしも、イソラに呼ばれたら行きゃなしだしね」


 オルガの視界と初めて繋がったあの瞬間、サィゼムはイソラの中のハツカを呼んだのだった。それに応えたハツカが、世界の壁を超えてムェイの中に入り込んできた。

 まさか過去のハツカの光景だけに留まらず、本人を呼び寄せるとは。これも玉の緒の神の血がなせる業なのだろうか。それとも、ムェイの想いの力にヒバリの剣が応えてくれたのだろうか。

 徐々に交替していき、今、表層的な部分はハツカに任せている。玉の緒の応用でオルガの身体に触れることなく、機脳本体へとムェイの機脳が繋がれるように試みているのだ。そのためには外に近い主体をハツカが持っていた方がいい。

 その裏でムェイはオルガの機脳に繋がったその瞬間に、深く入り込めるように、意識の底で集中して待っていた。

 喋り方はムェイと差異が生まれてしまったが、ハツカの身体の動きは問題なかった。ムェイと遜色ない。影の秘伝まで使うところを見ると、さすがはセラであり、見て学ぶことが染みついたケン・セイ一門だとムェイは思う。

 機脳もなくここまでの学習能力。ケン・セイ一門に関しては戦闘に関してという限定されたものではあるが、フィアルム人を凌駕しているかもしれない。



 サィゼムに呼ばれたときは一瞬何事かと思った。けれど、考える間もなくムェイの元へ移動していた。久しぶりのセラの身体だった。

 勘は鈍っていない。

 ヴェィルとの戦いでバラバラになりながらも、イソラの中に戻ったの頃を懐かしく思えた。イソラが一生懸命、糸を撚り集めてくれたのちは、イソラの中に残していた瞳を閉じた自分と同化した。それからはずっとイソラと一緒だった。

 オルガがムェイの身体に向けて掌を向ける。光の球が放たれる。

 ハツカはナパードをしようとしたが、呪いをかけられているのだと思い出し、すぐに跳び退いた。今は戦いに集中しないといけない。アレスの命もかかっているのだから。

 光の球が要塞の床で爆発する。その爆風に追いつかれないように、ムェイは後ろ向きのまま、瓦礫に足を取られないように駿馬の足捌きで離れていく。

 反撃に遠距離の攻撃をするのは、やはりムェイの身体に触れないようにするためだ。自分が呼ばれた意味を深く落とし込みながら、ハツカは触れずにオルガと繋がれる方法を模索する。

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