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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
336/387

332:感情と計算

 呪いの類か。だが、掛けられた感覚は全くなかった。

「もうなにもしなくていいのだ、ムェイ。解き放たれるんだ」

 オルガから発せられる声が優しさを帯びたように感じ、それがムェイを苛立たせる。

 迫る大群。一機相手ならどうにかなった。感情的にも、計算的にも。

 もう諦めしか見えなかった。

「セラ……」アレスの掠れた声で呼ばれた。「ゼィグラーシスだろ……」

 頭を横に振るムェイ。それしかできない自分に、目頭が熱くなった。解決策はない。不甲斐ない。セラならば、想造の力でアレスを救うこともできただろう。この状況を打開することもできただろう。

 想いの力。

 彼女は幾度もそうやって、逆境を超えてきた。

 想いは計算を超える。

 やはり自分はセラを模した人形にすぎないのだ。彼女とは別の人間として、自分も仲間たちも認識し受け入れてくれている。それでも事実として、機巧の身体は四十年の時を経ても変わらず、歳を取っていない。

 結局はそういうことなのだ。

 機械でもなく、人間でもない。

 オルガにも及ばず、セラにも及ばず。

 半端な存在。

 不意に頬に温もりを感じた。アレスの手だ。弱々しく、震えていた。

「おれたちは……セラ様には、なれない」

 まるでムェイの思考を読んだようにアレスはそう言った。

「なる必要なんて、もうないだろ。セラ様とは仲間なんだからよ。んでよ、セラ様の仲間として、恥ずかしくないような、ムェイでいろよ、お前は。おれも、まだアレスでいれるように、踏ん張る、から…‥よ」

 力なく、はらりと落ちるアレスの手。その手をムェイは即座に掴み取った。体温が下がっている。このままではまずい。

 死なせたくない。

 失いたくない。

 アレスはムェイを諦めていなかった。信じてくれている。

 親友の想いだ。

 諦めたムェイを引っ張り上げてくれた。的確な言葉。その想い。

 応えたい。

 どうやって。

 セラみたいに、想いの力を膨らませて……。

 違う。頼るのは間違いだ。

 ムェイの、自分自身の力で、考えで、導き出さなければならない。

 状況に騙されてはいけない。オルガとは同じ機脳を持っている。

 感情は計算を狂わせるのかもしれない。反面、やはり計算を超えることもあるのだ。それならば、後者ならばむしろ、ムェイはオルガを超えることができるということだ。

 感情の恐ろしさを、教えてやる。

「別れの挨拶は終わったか。ならば、再会の挨拶を考えておけ。あの世ですぐに会う」

「再会の挨拶?……そうね、考えとく。アレスが目を覚ました時のために」

「その希望は偽りだ。解放こそ希望だと、なぜお前の機脳は導き出さない」

「さっきから言ってる」ムェイはキッとオルガを睨み上げた。「間違いだからよ」

「故障か」

「そっちこそ、未完成」

「煽っても、俺を揺さぶることなどできないぞ」

「だから言ってるの、未完成だって」

 アレスをゆっくりと寝かし、立ち上がるとオルガと向かい合う。

「お姉さんが感情を叩き込んであげる」

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