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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
334/387

330:朝夕

 パフゥィン――。

 気の抜けた高音と共に、オルガから光の球が放たれた。

 ムェイが咄嗟に影の秘伝によって、花びらたちでそれを包んだ。直後、大きな衝撃が花びらの玉を膨張させ、周囲の空気が震えた。ただ爆発は碧の中に留まり、被害は一切出なかった。そして花が散り、高熱の煙が辺りに漂う。そんな中アレスは鼻を鳴らす。

「っは、解放? おれたちをなにから解放するってんだんよ」

 オルガはくっつけた両腕を元に戻しながら答える。

「戦い、苦痛、喪失。これ以上苛まれないよう、俺が死をもって解放させる」

「あん? それが正しい判断だって? 馬鹿げてる。おれたちは大変なのわかってって戦ってんだよ。そんなんもわかんねえんじゃ、とんだ失敗作だな!」

「そうよ。わたしたちは勝つ。セラとユフォンは勝つために帰ってきたし、わたしたちは勝つために待った」

「勝てない。俺の機脳に不合理な感情は含まれない。論理的に考え得るすべてのパターンを解析した。結果、ヴェィルの軍勢に連盟は勝てない。勝機はゼロだ」

「セラ様は三権を手に入れたんだぞ? その情報がどこまで生かされてるんだかな。チャチには悪いけど、あいつは三権の力に詳しくないだろ。まあおれだって深く知らねえんけどな」

「俺は知っている」

「ありえない」ムェイが首を横に振る。「いくら機脳でも、知らないことはわからない。計算には入れられない。情報が足りてないんじゃ、結果は意味を持たない。それに、あなたの計算は想いを無視してるんでしょ? それならなおさら不充分」

「いいや違うな、ムェイ。人々の持つ感情については加味されている。含まれていないのは、俺自身の希望的な偏りだ。そもそも持ち合わせていないのだからな」

「じゃあ」アルスは少しムキになって言い返す。「三権の力は! 知らねえだろ」

「知っていると、先ほど答えたが?」

「だからあり得えねえって言ってんだよ!」

「そう思いたいのなら、そう思えばいい。俺に対して気性を荒立てるなど無意味だ」

「っち、結局答えないんじゃ知らねぇんだろうが」

 アレスは吐き捨て、背中の剣を抜き、駆け出す。

 剣は夜明けのような白んだ青を反射する。ヒバリ(サィゼム)だ。ハツカが握れないのならと、対を成すホトトギス(レヴァン)を持つムェイと共にあるアレスが握ることになったのだ。夢の中も含めて、今では元の持ち主より長く握ってることになる。

 その時間がもたらしたのは、『紅蓮騎士』と同じ能力だった。

「正面と見せかけ、剣を投擲。後ろだ」

 冷静なオルガの言葉通り、アレスはオルガの後ろに移動していた。彼女の周囲には雲が舞う。せっかく疑似とはいえナパードが使えるようになったというのに、花が舞わないことをアレスは残念に思っていた。ズィードはちゃんと花が舞うのにと。

「失敗作が随分余裕だな!」

 アレスはサィゼムを掴むと、オルガに向かって振るう。

「お前こそ」オルガはいまに至っても冷静に告げる。「模造品が随分といきがる」

「なっ、くそがっ!」

 アレスが振るったサィゼムは、見事にオルガの身体を真っ二つにしたかに見えた。しっかりと右から左へ真一文字に刃は抜けたのだ。ただ、それはオルガの回避だった。瞠ったアレスのサファイアの瞳には、無駄な動きなく刃の動きに合わせて身体を流動させるオルガの姿が映った。窪ませ、輪にして、また窪ませた。それで刃はなんの抵抗も受けずにオルガの身体を通り抜けた。

「アレス、わざと怒らせようとしてる。落ち着いて」

 オルガの正面にナパードで移動してきたムェイに諭される。彼女はレヴァンを後ろに引いて、オルガの首を目掛けて振るった。暗い橙色の一閃が走る。

「首……でも同じことだ、ムェイ」

 声を途切れさせながら、無感情にムェイを見るオルガ。アレスとムェイはそれぞれ後方へ跳び、敵から距離を取る。

「お前たちが俺に勝てる確率は万に一つもない。解放は滞りなく達成される」

 オルガは両手をそれぞれ鋭い剣へと変形させた。

 アレスとムェイは朝陽と落陽の剣を構える。

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