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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
330/387

326:“は?”

 ズィードはモェラの剣を見て小さく笑った。

「戦い嫌いなんじゃないのか?」

「『嫌い』と『できない』の違いもわからないなんて。ほんと、ノージェったらどうしてこんなののために……」

「おい、ケルバを馬鹿にすんなよっ」

「馬鹿にするのは肩を並べる者同士、親愛のしるしよ」

 モェラは慈しみに満ちた顔で自分の身体を抱く。それから殺気の眼差しで義団を眺める。

「あなたたちこそ、下劣な失敗作のくせに慎みなさい!」

 ノプルテノの草原に冷たい風が吹いた。明らかに気温が下がった。

 ざっ……。

 アルケンが後退りして草原を鳴らした。ズィードはすぐさま振り向いて叫ぶ。

「逃げろアルケン!」

 アルケンの危機回避能力を持ってしても、その危機の察知に遅れがあった。モェラはズィードの前から消えるように駆け出し、すでにアルケンの背後に回っていた。剣を引き、アルケンの首筋に突き刺そうとする。

 ポンッ!

 軽やかな爆発音が耳に届いた。しかしズィードの意識はそこには向かわなかった。視線も合わせて、ネモに気を取られる。

 ネモが叫ぶ。「ごめん急で雑になった!」

 ネモの認知操作だ。夢で修業し、しかも今は極集中の状態。それでもあまりに急すぎたのか、仲間の意識まで自分に向けさせてしまったらしい。幸いにも、もしくはそこだけ意識したのか、竜馬で跳び出したシァンには効果を発揮せず、彼女はネモの方を向いたモェラを次の瞬間には蹴り飛ばしていた。

 直後、ネモの力から解放されると、立ち上がろうとするモェラに向かってズィードはすぐに駆け出した。隣にダジャールが並ぶ。

「死に気をつけろ、ダジャール」

「上から言うな。どうせ理解してないんだろ」ダジャールは鼻を鳴らす。「俺は草原を目印にするから安心しろ」

 ズィードを追い越し、獣人の膂力をモェラに向ける。

「俺はまだ腹の虫が収まってねえんだ! あのやろう、結局一人でやりやがってよ!」

「ふん、ふふふ、あなたたちなんて足手まといと思ったんでしょうね!」

「んっ!……ぐぬぅ」

 驚くことに、ダジャールの拳はモェラの剣に受け止められた。女だ男だと偏見を持つことはしない。セラがダジャールを圧倒する光景だって過去には見ている。ただ、夢での修行を嘲笑われているような気がした。長い年月修行した、その事実をなかったことのようにされているような気が。

「わたしも戦いは好まなかったけど。それでもいつかあの日に戻るためには必要だと思ったの。愛した人と一緒に過ごすためなら、それくらいの犠牲はいとわない」

 また慈しむような顔をした顔としたかと思えば、ころっと殺気に歪ませるモェラ。

「あなたたちとは戦いに身を置いてきた時間が違うのよ! 覆しようのないほどに!」

「時間がなんだ!」

 ズィードはダジャールの脇から出て、スヴァニを振り上げる。

「ケルバと過ごした時間だって、お前の方が長いだろ。それでも! あいつは俺たちを選んだじゃないか!」

「は?」

 低く冷たい声。モェラの足元から緑がなくなりはじめた。それを見て、ダジャールが他の仲間が集まるところまで身を引いた。ズィードはそのままスヴァニを振り下ろす。刃は目には見えない死を捉え、進行を止められた。

「あなたちを選んだ?」憎しみに瞳孔を開き、ズィードの奥深くまで覗き込むようだった。「は?」


「は?」


「は?」


「は?」


 モェラは何度も首を傾げ続けた。隙だらけだった。それでもズィードはただモェラのまえに立ち尽くすことしかできなかった。

 得体の知れないものへの恐怖。

 明確にそれだった。この恐怖をズィードは知っていた。この恐怖を感じたのは二度目だった。


『面白そうなことしてるな、お前ら』


 ケルバとの出会いが不意に脳裏に浮かぶ。

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