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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
最終章 百色万花
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320:深き夢見し戦士たち

 セラたちが保管庫に入ると、先に入っていたムェイとペレカが振り返った。二人の前には十三基の筒型の装置が並んでいた。

「これは……」

 セラの呟きにネルが応える。

「ノアの揺籃(ゆりかご)よ」

「ノア……! ネル、ノアは大丈夫なのっ?」

「ええ、セラ! ヲーンの医療技術は嫉妬しちゃうくらいすごいのよ。ノアが生きていてくれたおかげで、この揺籃も完成したの。だからノアの揺籃ですわ。まあ、とはいってもわたしの知る技術の方が多く入っていますけどね。ノアに花を持たせてあげましたの」

「そっか。ノア……よかった」セラはネルに笑い、それから双子の兄を想った。「それで、この揺籃はどういうものなの? みんながここで寝てる? 保管庫に入ってもまだ気配を感じないけど……」

「揺籃自体にも気配を消す機能をつけてありますの。みんなにゆっくり寝てもらうために、厳重に厳重を重ねて」

 ネルはペレカに声をかける。

「ペレカ、解凍はどれくらい進んでますの?」

 ペレカは影光盤を操作しながら返す。「七割りほど、もうすぐみんな起きますよ」

 ユフォンが眉を顰めた。「解凍? 凍ってるのかい? 寝てるんじゃ……」

凍眠(とうみん)ですわ。ヲーンの冷凍保存技術、竜人の仮死、夢見。主な技術はこの三つ。夢見の民については資料があまりなかったので、ドクター・クュンゼに助力していただきましたわ。といっても夢での技術伝達はさすがに本場の力が必要で、できるのは寝ながらの鍛錬だけですけど。それでも冷凍により身体は仮死状態。つまり成長することなく、みんなは三十五年以上、力をつけ続けた」

「みんなって言っても、ここで実際稼働してるのは十一個だ」エァンダが揺籃を見渡す。「俺とケルバは入らなかった」

「ケルバも? じゃあ彼はどこにいるんだい?」

「敵と相打ちだった」とエァンダは静かに言った。

「っ!」

「そん……ズィードたちは……」

「知ってる」エァンダは一つの揺籃に歩み寄り、手を触れた。「揺籃には夢の中に語り掛けることができる仕組みも付いてる。俺が全員にしっかり、伝えた」

「……」セラは悲痛な顔でエァンダに目を向ける。それから一度口を固く結んでから、開く。「十一個のうち、七個が義団なら、他の四つは誰が入ってるの?」

「ケン・セイ一門三人と――」

「アレス」

 エァンダを遮って、ムェイが恐らくアレスが入ってるであろう揺籃にこつんと拳をつけた。そしてセラに口角を上げた顔を向ける。

「びっくりするよ、セラ。アレスはナパードを覚えたの」

「ナパードをっ?」

「嘘を言うな」エァンダが肩を竦める。「あんなのナパードには遠く及ばない」

「あん?」ムェイはエァンダを目を細めて睨みつける。「頭の固い老いぼれは黙ってろよ」

「ムェイとエァンダってなにかあったの?」とセラはネルにひっそりと問う。「さっきも後ろで気になってたんだけど……」

「エァンにも寝てほしかったのよ、ムェイは。揺籃ができてからずっと、説得してたのよ。それで、あまりにエァンが寝なかったから、ね……」

 呆れ気味に言うネルに、セラも苦笑を返した。

「……なるほど、ね」

「みなさん、解凍が終わりますよ!」

 ペレカがにこやかに言った。そして全員の意識がノアの揺籃に向かう。

 筒の前面が上に向かってゆっくりと滑り、冷気を漏らしながら開く。白い靄に隠れた人影が、次第に明らかになっていく。

 みんなセラが知る姿とさほど変わらない。本当に揺籃の中では時が止まっていたらしい。懐かしい気配が、それぞれに力強く感じ取れる。夢での修行は大成功と言っていいだろう。

「みん、っ!」

 セラが呼び掛けようとしたその時だった。揺籃の一つからセラに向かって人影が跳び出してきた。セラはすかさず、彼の右手から繰り出される拳を受け止めた。

「ケン・セイ……相変わらずだね」

「セラフィ……」

 表情を険しくすると、ふと力を抜き、ケン・セイは踵を返した。

「寝る」

「え……?」

「あれは……」ユフォンはケン・セイの後ろ姿を訝しんでセラに小首を傾げる。「どうしちゃったんだい?」

「うーん……」セラは苦笑う。「わからないような、わかるような?」

「セラとの差にもっと修行したくなったんだろう」

 エァンダが言って、ナパードで移動し、ケン・セイの進路を塞いだ。

「二度寝はさせないぞ、ケン・セイ」

「どけ。エァンダ」

「これから朝が来る。朝日に拝むだろ、ヒィズル人」

「拝まん」

「そうか。どっちにしろ、このまま起きて、セラを直接見てた方が面白いんじゃないか?」

「ん……」

 ケン・セイはちらりとセラを振り返った。セラは彼の目を挑発的に見返した。

「ふん」視線をセラから逸らし、ケン・セイはエァンダを正面に捉える。「一理ある」

「だろ?」

 エァンダは肩を竦めると、セラたちの方へ歩いて戻る。振り返り、ケン・セイをはじめ、目覚め、装置から歩み出た仲間たちに改めて目を向ける。

「さっきも言ったが――」

 ケン・セイ、イソラ・イチ、テム・シグラ、アレス・アージェント、ズィード、ソクァム、シァン、ピャギー、ダジャール、モネ、アルケン。

「――これから朝が来る。俺たちの手で、異空を朝日で照らす」

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