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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第五章 無彩迷宮
319/387

316:示すべき覚悟

「そんな……」

 ユフォンの表情は急激に沈んで、セラから目を逸らした。

 楽観的に考えたくなるのもわかる。セラもそれならどれほどよかったかと、代償の重みを理解しながらも、改めて絶望に胸が痛んだ。

 その痛みのまま口にする。

「わたしは、嫌だからね。ユフォンを殺すなんて、できるわけないっ……!」

『僕の見込み違いだったのか』

 残念そうな『彼』の声。それに、ユフォンが吠えた。

「いくらなんでも酷すぎる! セラがいまどれだけ大事な人を失って苦しんでいるか!」

『それでこそ試練になるんだよ、ユフォン。セラに託したいのは三権だけではないしね。簡単に済まそうなんて、見くびってもらっては困るんだ。覚悟を見せて、セラ』

「覚悟……」

『彼』の言葉を反芻し、セラは脳裏にィエドゥの言葉を思い返していた。



「君の想いは決して弱くないだろう、舞い花。彼の想いがただ果てしなく強いんだ。己の願いだけを純粋に追い求め、邪魔をする者は慈悲もなく排除する。それが愛する妹であってもだ。その覚悟が君にあるか?」



 ――覚悟。

 ――目的のためなら、愛する者であっても手に掛ける覚悟。

 ――想いの強さがあれば、自ずと生まれるの?

 ――果てしなく強い想い。

 ――ヴェィルにあって、わたしにはない?

 ――わたしとヴェィルは違うから、それでいい?

 ――違うけど、そうじゃない。

 ――ヴェィルとわたしが違うのは、そこじゃない!

 ――わたしの想いは、決して弱くない!

 ――わたしが示す覚悟は。



 セラはユフォンの上から立ち上がった。

「セラ?」

 不思議がるユフォンを余所に、セラはフォルセスに手を掛けた。

「セラっ?」

 驚くユフォンに笑みを向け、セラはフォルセスを抜いた。

 七色の反射がユフォンの顔にちらつく。

「セラ……?」

「ユフォン、ごめん」

「え? まさか、本当に?…………いや、いいんだ、君が、決めたなら」

「ううん、ユフォン勘違いしてる」

「どういう……」

「『碧き舞い花』、ここで終わりになるかもって。そういうごめん、いまのは。ヴェィルを倒して異空を護りました、みたいな結末じゃなくて、ごめんってこと」

「ぇと……なにを?」

『うん、どういうことなんだいセラ』

 セラは白い空間に向かって言う。

「わたしが見せる覚悟は……目的を果たすためなら、愛する人を殺せる覚悟じゃない。どんな時だって、愛する人を護る覚悟」

 白き空間に刃を向けるセラ。

「あなたがユフォンの友達で、フェル叔母さんの尊敬している人で、そして想像も及ばない存在だったとしても」

 碧きヴェールがセラを包む。

「わたしは立ち向かう!」

『そうか……』

 ぽつりと零される『彼』の声。セラはユフォンを見てまた笑った。

「ユフォンがつけてくれたの、聞いてたよ」

「え?」

 辺りに碧き花が舞う。

「想像を咲かす力」

 そして白き空間が、碧に染まっていく。

「わたしだけの力!」

 彼女の言葉を最後に、空間は碧一色となった。

「ははっ!」

 それを見たユフォンの笑い声が、響き渡った。『彼』の声も重なって。

『ははっ!』



『正解だよ、セラ』



「えっ?」

 空間は碧のまま、『彼』の優しい声だけが聞こえた。

『君は僕の試練を絶対とせず、道を見つけ、覆した。それこそが僕が求めた人だ』

 と、唐突に空間は白一色に戻った。

「ぁ」

『ははっ、とはいえ、まだなにも渡していない君の力に負ける僕じゃないんだよ』

「あぁ……ははっ」

 セラは苦笑と共にヴェールを抑えた。消さないのは少しの警戒心だ。

『それじゃあ、渡すよ。三権』

『彼』の声に合わせ、彼女の前に三つの輝きが現れた。セラはそれを見つめながら『彼』に問う。いくらそういう趣旨の試練だったとしても、代償を払ったわけではないのだ。

「なにも差し出さなくて、大丈夫なんですね」

『うーん、どうだろう』

「……」

 ユフォンが立ち上がる。「ちょっと、そんなのってありかい? 君」

『ごめんよ、セラ、ユフォン。まあでも、強いて言うのなら、象徴になること、その役を負うこと。それが代償になるのかもしれない。これ以上のことは、僕の想像を超える範疇だ』

「もし、セラに大事があったら、今度は僕が君に立ち向かうからね。覚悟しておいて」

『うん。覚悟しておくよ』

『彼』は笑いながら言って、それから真剣な声色でセラを促した。

『さあ、セラ。覚悟の証を受け取って』

 セラ、ここでフォルセスとヴェールを納め、それから頷いた。

「はい」

 セラは輝きに手を伸ばした。

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