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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第五章 無彩迷宮
313/387

310:重なる経験

 透き通ることがなかったということは、粒子の性質も操作できたということか。それともまだ早計か。

 次手だ。

 ヌロゥはすぐに武器にも粒子を伝えられるのかを試しに掛かる。粒子に押し飛ばされたバーゼィを追い、その腕に向かって歪んだ刃を振るう。

 するとバーゼィは吹き飛ばされた体勢のまま、腕を振るい壁を操った。横から伸びてきた壁にヌロゥの斬撃は阻まれる。ヌロゥが裂いたその壁の間から、反撃の動きをバーゼィが見せていた。

 体勢を立て直し、足を踏ん張ったバーゼィが、裂けた壁をさらに破壊してヌロゥに拳を突き出す。ヌロゥは剣を翻し迎え撃つ。

 拳と剣が打ち合う。

 ヌロゥはその接点に、二人の粒子がせめぎ合うのを捉える。そして次第にヌロゥの粒子が押し返されていくのも。

 使いこなせていないと、敵の言葉を借りればそういうことだろう。練度の差を認めざるを得ないのは本当のところだ。経験を得るための時間は言うまでもなく少ない。飲み込みが早かろうが、限度がある。

 衝撃を受ける前にバーゼィから離れるヌロゥ。跳び退いた先でふらつく。求血姫の特性にもまた、限度がある。血を失い過ぎれば、行き着く先は誰も皆同じだ。

 右目が霞んできた。視線の先、バーゼィの輪郭が定まらない。

 威勢を張れるのもここまでか。

 不意に意識が遠のき、身体が後ろに倒れていく。だが地面につくより早く、身体が支えられた。

「ヌロゥ!」



「ユフォン!」

 セラは上空から、ユフォンがヌロゥの身体を支える瞬間を見た。そして二人に向かってバーゼィが迫るのも。目に見えていればナパスに勝る速さなし。

 碧き花が舞う。



 碧き花が舞う。

 それだけは、鮮明に右目に映った。くすんだ緑を彩る、碧き花。

 ヌロゥは、小さくぬらっと口角を上げた。



 ユフォンとヌロゥの前に現れると、セラはすぐさまトラセードを使った。僅かな時間稼ぎだが、場の権が使われ、バーゼィが攻めてくる前にヌロゥを回復させる気でいた。

 しかしそうして振り返ったセラに、ユフォンに支えられたヌロゥは、焦点の定まっていない右目を見開いて言う。

「舞い花っ、俺の右目を見ろ!」

「?」

「もたつくなっ。できるだろ、お前なら。感覚連結っ!」

 セラはヌロゥの言わんとしていることを即座に理解した。彼が、バーゼィを倒すためのなにかを掴んだのだ。そしてそれを口で説明している時間的、体力的余裕はないのだと。

 彼女は頷くと、ヌロゥの右目を見つめた。そしてレキィレフォの力により、体験を共有する。

 波と粒子。

 事象と存在。

 粒子の体感。

 粒子の濃度変化と性質変化。

 ヌロゥが発見し、考え抜いたことが、自分の体験のように身体に染み込んでくる。

 共有から戻ると、セラはすぐに粒子を見た。ユフォンとヌロゥの粒子。気読術が感じさせる気配とは違う。

 存在感。

 二人を見比べると、ユフォンの方が濃く、ヌロゥが薄く見えた。視認している姿は当然変わっていないのだが、そう見えた。そしてそれは気配の弱りと比例していた。

 バーゼィが迫る気配を感じ取り、セラは振り返る。そして見た粒子の濃密さに、改めて強大な敵なのだと思い知らされる。

「今さら来たって、お前じゃどうにもできないさ。だってそうだろ、そいつはもう死ぬんだからな!」

 殴りかかってくるバーゼィ。その目はセラではなく、後ろのヌロゥを見ていた。セラはそんな彼の腕に、フォルセスを振り上げる。

「無駄だ! だってそう……っ!?」

 バーゼィの腕の振りよりも早く、フォルセスは彼の脇の下に届く。

 透過することなく、バーゼィの腕が斬り飛んだ。

 彼女はヌロゥの経験を引き継いだ。それはただ教えてもらうのとは格段に違うもの。ヌロゥを通して、彼女も粒子を見て、使っていた。

 はじめてでいて、はじめてではない。

 そのうえで彼女の考えや特性、本来の経験、それらの彼女の器に納まったものが、その経験を底上げする。

 彼女をすり抜けようとしたバーゼィの粒子の性質変化を、セラは捉えていた。自分の中に見える粒子と質感が一緒になっていたのだ。滑らかな質感に。

 性質を自分の思うように操作する要領は得なかったが、バーゼィとは違ったものにすることはできた。攻撃に合わせて、刺々しい粒子になった。技術的ではなく、感情的な要因でそうなったのだとセラは思った。想いの力だ。

「っなんでだ!」

 バーゼィは傷口を押さえて後退りながら、セラを睨んだ。

「なんでお前まで……!」

「……」セラは僅かに首を傾げてバーゼィを見返した。「生の権、使わないの?」

 欠損した腕の代わりにだらだらと血を流すバーゼィは憎々し気だった。

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