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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第五章 無彩迷宮
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309:事象と存在

 濃度変化はなかった。

 腹部の圧迫により呼吸が止まる中、ヌロゥはそれでも思考を続けた。

 ではなんだ。どういう原理ですり抜ける。粒子は関係ないのか。なにか忘れてることはないか。粒子とわかった今、人外らとの戦いを思い返す。

 肉弾だけでなく、放った攻撃まですり抜ける。透過できるのは、一回につき一人だけ。

 ヌロゥは粒子の衝撃により吹き飛び、壁に激突した。飛びそうになる意識を無理やり押さえ込む。そこでふと一つの映像が脳裏に浮かんできた。

 ィエドゥがヌロゥとユフォンの攻撃を避けた時。彼は床や壁と同化した。

 同化だ。

「そうか……だから、一人か……くくくっ」

 存在。

 よくよく考えてみれば、粒子とは物質。存在だ。

 対して波は、物質とは違う。事象だ。

 波と粒子。事象と存在。

「なにがおかしい?」

「例えば……波は揺らぎを合わせたり、ぶつけたりすることで、増幅や減衰をさせることができる。事象と存在では差異はあるだろうが、粒子においても同じようなことができるとすれば?」

 ヌロゥは右目を細め、バーゼィをぬらりと睨みつけた。

「存在の同化……粒子は性質も変えられるのか? 同じ存在になることで、害がなくなる。違うか? だとすれば、粒子の性質を操作できれば、透過されることのない攻撃も実現可能。違うか?」

「わかったから、なんだ。だってそうだろ。さっきも言った。お前は使いこなせないってな!」

 バーゼィが両腕を突き出した。そこから陽炎と粒子が飛んできた。ヌロゥは壁から離れ、異空の空気を二つ塊に向けて放った。

 ぶつかると思われたそれらは、触れることもなく通過し合い、ヌロゥは終の権の力を存分に味わうことになった。

「……ぶっ、くぁ!」

 攻撃として放った粒子も性質を変えられる。それでいて、放った後にも変化させることができる。だからこそ、ヌロゥの反撃を透き通したあとに、ヌロゥ自身には当てるという芸当ができたのだ。

「……くっふふ。お前はつくづく情報をくれるな」

「それがどうした。お前はもうすぐ死ぬだろ、だってよ」

「何度も言わせるな。俺の命はお前では終わらせられない」

 ふらつきながら、ヌロゥは歪んだ笑みを浮かべる。その姿に、バーゼィが眉を顰めた。

「お前、変だぞ」

「他者なんてものは、往々にして変なものだ」

 ヌロゥはだらりと駆け出し、バーゼィに迫る。その最中、自分の身体の粒子に意思を向けていく。バーゼィがやっていたように、身体を構成する粒子の濃度変化を試みる。まずは粒子を放つところからだ。

 波を放つときの要領を真似して、それでいて体の内側を強く意識する。しかしうまくいかない。ヌロゥの粒子は一向に動こうとせず、結局バーゼィに対して異空の空気を纏っただけの殴りつけを披露する。そしてそれはまんまと透過され、ヌロゥは通り過ぎた背中に肘鉄を食らった。

「ぐ……はっぁ」

 身体が息を勝手に吐き出し苦しくなるのを、無理やり口から空気を流し込むことで防ぐ。その折、異空の白と黒も飲み込んだ。

 意図したことではない。偶然だった。

 白と黒を飲み込んだとたん、身体に跳ね上がるような衝撃が走った。身体の粒子が、波によって揺らいだ感覚。

 きゅっと足を踏んだり、身体を回して拳を繰り出した。

 ヌロゥの拳が、バーゼィの胸を打った。

「ぶぁっ!」

 身体の芯からなにかが巡り、拳の先から飛び出した。

 紛うことなく、粒子だ。

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