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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第五章 無彩迷宮
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299:飽食の権化

 蹴り上げられて吹き飛ぶかと思った瞬間、ズーデルは足首を掴まれた。そのまま引っ張られ、壁に叩きつけられた。休むことなく振られ、今度は床に落とされた。

「……っくぁ、くっ!」

 陽炎を放つ。

 バーゼィは陽炎を手で掴み、握って小さくすると大きく開けた口に頬り込んだ。そうして飲み込むと、ズーデルを見下ろして、舌なめずりをして見せた。

「なっ!?」

「驚くことねえ。だって俺は、飽食の権化だからな」

 脚を大きく振り上げるバーゼィ。次の瞬間には彼の靴底が、ズーデルの腹に食い込んだ。

 ただの踏みつけとはわけが違った。当然のように足からも衝撃が放出され、ズーデルの身体を突き抜ける。

「ぁがっ……」

 内臓が損傷しただろう。だがそれもすぐに治る。痛みに少し耐えればいい。

 そう簡単に死ぬことはないだろうが、劣勢を覆せなければ負けしかない。もっと、力が。

 三権のすべてをこの身に戻さなければ。

 ズーデルはバーゼィに踏みつけられたまま、迷宮の中央に伸びる光の柱を見やる。三権を感じる。自分だけがそのすべてを手に入れた。

「『それら』は『俺』になったんだ」

 ズーデルは呟き、遠く光の柱に手を伸ばす。途端、腹が軽くなったかと思うと、伸ばした腕を踏み潰された。

「ぐあっ……! やってくれるねっ!」

 反対の手でバーゼィの足首を掴んで、そこから終の権の陽炎を発生させる。透過されないよう、床でも足を拘束しながら。

「これなら食べられないでしょ! それとも自分の脚ごと食べるとか?」

「そうだな」

 身体を大きく曲げて、バーゼィの顔が床すれすれまで降りてきた。

「っていうのは嘘だ。だってそうだろ、そんなことしなくても抜けられる」

 その言葉のすぐあと、バーゼィが顔を上げると、足首を掴んでいたズーデルの手が蹴り離された。

「三本っ!?」

 軸足と腕を踏みつけていた足。それ以外にもう一つ、足が視界に入った。ズーデルは反対側に曲がった腕が治っていく中、今一度バーゼィの身体を見た。

 二本だった。

 軸足と、ズーデルの腕を蹴った足。

 ズーデルか床、どちらかしか透過しないのだから、すり抜けてから蹴ったわけではない。見間違いでもない。確実に、脚が三本になった瞬間があった。そして二本に戻った。

「また変な能力だね」

「お前らの世界の神の力だ。案外役に立つものだぞ」

「あっそ。でも生憎だね。俺は神なんて存在は信じてないんだよ。神よりも格上の力を持ってるからねっ!」

 迷宮が鳴動した。

 訝るバーゼィ。「なんだ?」

 だがもう遅い。

 光の柱が近づいてくる。いいや、ズーデルたちが中央に向かって動いているのだ。しばらく経つと、色が失われた。だが力はなくならない。光の柱に近付き続ける。

 そして、ついに光の柱に、回復した腕が触れた。

「俺の勝ちだよ、露出狂っ!」

 白と黒の波が拡散する。

「笑わせる! だってそうだろ、そんなことさせるわけないんだからな!」

 バーゼィも光の柱に腕を突っ込んだ。白と黒がより強く、爆発的に迷宮に広がっていく。

「俺の力だ、勝手に触るなぁーっ!」

 ズーデルの叫びと共に、黒と白が収束していく。



 想造の力が戻った。

 セラはすぐにヴェールを纏い、意を決する。

 戦いたくない。だからこそ、すぐに終わらせたい。それが兄への救いになる。想造の戻りを待つ中、考え方をそう改めた。

 ウェィラを納め、フォルセスを振るいながらも片手を空けられるようにしておく。手で、兄の頭に触れることが目的だった。記憶や意識を奪われているのなら、狙うのは頭だとセラは決めたのだ。

 セラはフォルセスでオーウィンを受け、それからビズラスの頭に手を伸ばす。

「ビズ兄様っ!」

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