29:移ろいゆくもの、留まりしもの
「連盟の代表としてこの世界の代表者である帝たちに挨拶だけと、そう思っていたんだ。『賢者狩り』もあるからな、参加も観戦も見送るつもりだった」
ゼィロスとセラは近くにあった岩に腰かけ、水分補給をしながら会話に臨む。もちろん、辺りに注意を向けながら。
「だが、お前が戻り、ホワッグマーラに向かうと聞いてな。お前ならもしやと思って、参加受付はすでに過ぎていたが、ドルンシャ殿に頼んで、参加させてもらった」
「なんで参加なの? 観戦でいいじゃ?」
「鍛錬の時間があったのはお前だけじゃない」
「うーん、そうだけど、なんでいまさら? 伯父さんは連盟の運営に集中するものだと」
セラがそう言うと、ゼィロスは目を細めてじっと彼女を睨みつけた。
「二年前のスウィ・フォリクァ襲撃。あの時、お前に足手まといと言われたからな」
「……そんなこと言った、わたし?」
「言ったぞ。カッパとの戦いの時にな」
「あー……」セラは記憶を辿り、思い当たる節を見つけた。「ごめん、伯父さん」
「いや、構わん。的を射た言葉であったし、『夜霧』との戦いがいつまで続くかわからない中であまり鍛錬をしていなかった俺も悪い」
ゼィロスは立ち上がる。
「本来なら、決勝まで正体を隠しておこうと思ったんだかがな。ドルンシャ殿に鉄仮面を勧められたが、その方がよかったかな」
「ははっ……どのみち気配でわかっちゃうよ、伯父さんのことは。なんなら――」
セラも立つ。
「わたしが変装、教えてあげようか?」
「ふんっ」ゼィロスは口角を上げる。「じきに世代交代か、『異空の賢者』は。もう今の俺には足手まといからの脱却で十分だ」
「なに言ってるの、伯父さん。ヅォイァさんに笑われちゃうよ」
「ああ、そうか。まだ戻ってきてから会っていないんだったな。ヅォイァ殿は、二年前お前と別れデルセスタで療養していたが、全快が叶わず引退したんだ。今はデルセスタで教官をやっているぞ」
「え、そうなの?」
「勝手に剣をやめてしまったが、お前の道具であることは変わりないとのことだ」
「まだそんなこと、もう。頑固のおじいちゃんなんだから」
セラが楽しそうに笑うと、ゼィロスも笑った。
「さて、話していても予選の突破できない。次は決勝で会おう、セラ」
ゼィロスはぴたっと笑顔を消すと、戦士の瞳でセラを見つめた。
セラも真剣な顔で黄緑色の瞳を見つめ返す。
「うん。決勝で」
岩山に碧と赤紫が散った。
「少し透けてますし、幽霊、なのでは?」
シューロは戸惑いの色を交えた瞳でジュメニとズィーを見やった。
「ズィプガルさんは、その、もう……」
「ズィプくん」言いづらそうにするシューロにを制して、ジュメニが続きを告げる。「君は死んだ。それはわかってる?」
「……ん?」
ズィーの思考が止まる。
はっとして、現れた当初のように自らの身体を確認するズィー。
「……ん?」
まだ、彼の頭は回らない。
ジュメニとシューロはなにも言わず、ただ彼を見守る。
遺跡はしんと静まり続ける。静寂までもが、『紅蓮騎士』の行動を待つ。
「……まっさか~! 冗談きついっしょ、ジュメニさん」
ようやく口を動かしたズィーは、まさに冗談を笑うようだった。だがその紅の瞳は、虚ろだ。
そしてついには目を見開いた。
「うっそだろぉぉおおおおおっ!!?」
遺跡はその大音声に驚いて、揺れた。