3:行方不明の弟子たち
「ユフォンくんに連絡がつかないんですっ! もう一週間! どうしましょう!」
灰銀髪を盛大に躍らせて、魔導賢者ヒュエリ・ティーは机を叩く。その顔は今にも泣きだしそうだ。
「落ち着け、ヒュエリ」
ヒュエリの対面、詰め寄られた異空賢者は溜息交じりに諫める。
「落ち着け!? なんてことを! 弟子が行方不明なんですよ! これが落ち着いていられる、わけ、ないじゃ、ないですかぁ~……」
泣き出した。白く縁取られた瞳孔が輪郭を揺らす。
「はぁ……ヒュエリ。弟子が行方不明なのは俺も同じだ。とにかく座るんだ。そして落ち着け。この地は静かでなければならない」
ゼィロス・ウル・ファナ・レパクトが隠れるために選んだ地、アズ。今、史上最も騒がしいことは言うまでもなかった。
「セラちゃんは――」
「ヒュエリ」
名を呼ばれてヒュエリは口を紡ぐ。そして一呼吸置くと、椅子に腰かけた。
「……ごめんなさい」
「ユフォンも今は全く戦えないわけではない。確かに彼が一週間も連絡を経つということはなにかあったんだろう。身を案じるべきだ」
「だからこそ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないじゃないですか、ゼィロスさん!」
「だから落ち着け。ユフォンが奴らに狙われる可能性が高いことは連盟でも話し合っただろう。だからいくつかの賢者のもとで修行をさせ、そのうえで、拠点を持たぬよう指示してある。連絡も『情報の翼』に限らせている」
「それは知ってま――」
ヒュエリはなにかを思い出したように、言葉を止めた。
「落ち着いたか?」
「……ごめんなさいっ」ヒュエリは頭を抱え、机に突っ伏す。「わたし、もう……お恥ずかしい限りです……ふぇ~……」
「構わない。君は賢者だがまだまだ若いし、弟子もユフォンがはじめてだろう。気が動転するのも仕方ない」
「うぅ…………」
唸ったかと思うと、ヒュエリはばっと顔を上げた。
「なんだ?」
椅子を鳴らして立ち上がるヒュエリ。「今すぐヌォンテェさんのところに行ってきます!」
「また、逸ってるぞ。大丈夫だ、ユフォンは生きてる。捕らえられてしまったようだが、ヌォンテェが目を離さず見ている。生命活動も言うほど弱っていないそうだ」
「そうですか……って、捕まってる!? 助けに行かないと!」
「だから……」
ゼィロスは呆れて息を漏らす。そしてヒュエリに鋭い眼差しを向ける。
「いいか、ヒュエリ。保安部が救出のために動いてる。相手がヌロゥ・ォキャ率いる第一部隊だから時間をかけているが、直救助される。ホワッグマーラで弟子の帰りを待っていてやれ。それが今の君にできることだ」
「いいえ!」
「ん?」
「研究しながら待ちます! ただ待ってるなんてできませんよ。いろいろ考えちゃって不安になってしまいますから!……あ、でも、不安で研究に手がつかなかったらどうしましょう、ゼィロスさん!?」
「……あらゆる世界の時濃度でも計算していればいい」
「……それ、楽しいですか?」
ゼィロスは首を小さく傾げる。「いや」
「……」
「……俺なら研究を取るな」
「……ですよね。わたしもそうします」