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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第五章 無彩迷宮
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296:器用貧乏

 なにが起きたのか。

 まったくわからなかった。

 意識が遠のきかけるが、身体中の痛みと熱さにそれが許されなかった。

 息苦しくなって、大きく呼吸をしようとすると熱すぎてむせ返った。

 耳鳴りが酷かった。

 白けた視界が明瞭さを取り戻してくると、景色が逆さまだった。迷宮が上にある。

 浮いている。ヌロゥに浮かされているままだ。

 仰向けで、だらりと浮いている。だから、景色が逆さまなのだと理解する。

「……ヌロゥ」

「一撃で終わらなかったことは褒めてやろう、ホイコントロ」

「なにが……」

「初見の攻撃に余計なことをするからそうなる。その後の対応の術を持たないなら、観察だけにしておけ」

「結局、なにが、起きたんだい」

「お前が攻撃したのは爆弾だ」

 ユフォンは自分の中に落とし込むように呟いた。「爆弾……」

 耳鳴りが治まってきて、辺りが騒がしいことに気付く。

「爆弾」

 ユフォンは辺りを見回してもう一度呟いた。二人の周りにはさっきユフォンが攻撃した、中央が光る球体が無数に漂っていた。ゆったりと二人に向かってきている。その一つ一つを、離れたところで爆発させながら、ヌロゥは進んでいた。

 そして自分の身体は火傷や切り傷でいっぱいだった。そうやって自分の様子を確認しているユフォンに、ヌロゥの声が問う。

「戦えるのか」

「え?」

「お前の策を試せるのかと聞いてるんだ」

「あ、ああ、うん……自分のことも治せるから、その後なら」

「悠長なことを。待ってくれるような敵なら、そもそも戦いにはならない」

「ははっ……そういう君は、セラが力をつけるまで待ったじゃないかい」

「益があればこそだ。やつには待つことに意味がない」

「あぁ……もっともだね」

 ヌロゥは呆れたのか、なにも言ってこなかった。だからユフォンは身体に力を込めて、自分を包み込むように治癒のマカを発動させようとした。しかしそれより早く、ガラスが割れる音がして、その直後には彼の身体を優しい空気が包み込んでいた。

 甘ったるくて心地のいい空気だ。

 痛みが引いていく。身体が軽くなっていく。嘘のようだった。身体を動かし、重力に対して正対になる。身体を見渡すと、火傷も傷も癒えていた。

 ユフォンはヌロゥに視線を向ける。「癒しの空気かい?」

「終わらせに行くぞ」ヌロゥは飛行を加速させる。「この陳腐な興行を」



 数多の砲弾や刃物、それから爆弾。

 攻撃を掻い潜り、二人はついに地上に降り立った。対峙するのは当然、ィエドゥだ。

 ヌロゥはぬらっと笑う。「逃げずに待ってるとは」

「君たちこそ、逃げればよかったものを」

「戦争は終わりか? 次はなにが出てくる? 手を変え品を変え、まさに興行。だがそれも終わりだ。舞台から降ろしてやるぞ、器用貧乏」

 ヌロゥはここで再び異空の空気を纏い直した。黒と白が濃くなる。

「器用貧乏だと……煽りか? それとも、侮辱か?」

 ハットの奥の目が、ギラリと揺れてヌロゥを睨んだ。ヌロゥはくすんだ緑でぬらりと睨み返し、ィエドゥを鼻で笑った。

 それを見たィエドゥはハットの縁を強く掴んで歪ませた。そして脱ぎ捨てる。

 額に血管を浮かせ、憤怒の声を響かせる。

「利器の権化への侮辱は、わが父への侮辱っ! 簡単に死ねると思うな、隻眼!」

「ああ、簡単には死なないさ。そもそも、お前ごときに殺されるわけないんだからな。くくくっ」



 地に足が着くと、浮遊感が残っていて覚束なかった。それでも、ヌロゥがわざわざィエドゥを怒らせるようなことを言って、戦いの緊張感を一気に高めた。

 きっとヌロゥのことだから、相手を怒らせたこともなにか意味があるのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えるユフォン。そんな中、彼は自分がどうにも集中できていないような気がしていた。これからは自分も戦うというのに、どこか他人事のようだった。

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