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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第五章 無彩迷宮
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288:君は違う

 セラが先に動いた。

 触れないナパードでズーデルを迷宮の中心から離すように、自身の背後に跳ばす。彼女はそれを追うように踵を返すと、駿馬とトラセードの合わせ技で一気に彼との距離を詰めた。

 とめどなく剣を打ち合う。途中で衝撃波や術式を交え、徐々に三権の力を持つズーデルを測っていく。ホワッグマーラで三つの権を手にした彼の気配は全く読めなかったが、今では読めている。想造のおかげだ。しかしそれでも、三権は想造よりも位の高い力だ。想造を生んだ力だ。想造がどこまで通用するのか。想造でどこまで対応できるのか。知っておかなければならない。

「張り切ってるね、舞い花ちゃん」

 ズーデルは随分余裕だった。セラの繰り出す攻撃も易々と躱したり、ほこりを払うように弾き飛ばした。ただセラはその様子を見ていて、力が通じないと絶望することはなかった。

 三権の力をもってしても、想造の力は弾き飛ばすだけ。掻き消されることはない。なかったことにはされていない。

 想造を絶する力には及ばなかった。

 遊ばれてるのか。それとも本当に、三権の限界はそこにあるのか。

 見極める。

 セラは打ち合いの最中、ウェィラを抜いた。そしてツバメはフクロウを映し出す。

 二刀流で手数を増やす。それだけではない。あの時、共に戦ったビズラスを感じたかった。兄と共に、勝つ。

「ああ、それお兄さんのやつだよね」

 青雲のマントの中からズーデルももう一本の剣を出した。ただセラに合わせたという感じで、二本でなくとも余裕なのだろうと感じ取れた。

「大好きなんだね、お兄さんのこと」

 ズーデルは慈しむような笑みを浮かべた。

「会いたい?」

 その言葉にセラは眉を顰めた。嫌な予感がした。

 ここまでズーデルが見せたのは三権のうちふたつだけだ。終の権と場の権。

 残るは生の権。

 ドルンシャ帝はその力で、ビズラスの幽霊を呼び出していた。

「ふざけないで!」

 攻撃の手を止め、怒りを露わにした。

「会いたくないの?」

「ビズ兄様はいつだってわたしの傍にいる。お前にはなにもさせないっ」

「……もうしちゃったけど。ほんと、傍にいるね、お兄さん」

 セラは背後にその気配が現れたことに、下唇を噛んでズーデルを睨んだ。

「ほら、感動の再会でしょ? 笑いなよ……あ、それとも泣く?」

「セラ、危ないっ!」

 ユフォンの声が遠く、彼女に危険を報せた。

 セラは頭上に迫るオーウィンを、その姿を映すウェィラをあげて受け止めた。

 ツバメとフクロウが音を奏でた。

 重かった。

 心に圧し掛かるものが重かった。

 振り返りたくなかった。

 戦いたくなかった。

「ビズ兄様……」

 セラは二本のオーウィン滑らせながら、その下から抜け出る。身体を回し、フォルセスを振るう。せめて一振りで終わってと、願いを込めながら。

 しかし、彼はそんな簡単な戦士ではない。

 彼女だって、知っている。尊敬する兄が、こんなことで終わるわけないことくらい。

 セラの手首は掴まれた。

 左利きのビズの、空いた右手で。

 そして、目が合った。

 髪のブロンドを優しくぼかした色の瞳と。

 ただその目は兄が妹に向けるものではなく、一人の戦士として敵に向けるものだった。

「兄様と呼んだようだけど、俺の妹はスゥライフ一人だ」

 ビズラスの敵意に満ちた冷たい声がセラの胸に深く刺さった。

「君は違う」

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