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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第五章 無彩迷宮
289/387

286:色が差す

 ズーデルの怒りに身を任せた攻撃は雑だった。どこか上の空だったさっきまでの身のこなしの方が、武人のそれで、今は素人のようだ。

 セラは簡単にいなし、壁をうまく使い、反動をつけてズーデルを殴り倒した。斬ることさえ、かわいそうに思えてしまっていた。

「ううぅ……」

 倒れたズーデルは身体を丸め、頭を抱えて呻き声を上げる。

「なんでだよぉ……なんで、僕は殴られるんだよぉ……」

「……」

 セラは警戒しながらズーデルを観察し続ける。さっきまで俺だった一人称が僕に変わり、とても覇王となった男とは思えない弱々しさだった。

「な゛にも、変わらない……のに、なんでだぁ……」

 セラは思わず呼び掛ける。「ズーデル……?」

「うわぁ! ごめんなさいっ! いやぁだぁ、蹴らないで、もう……蹴らないでぇ……」

 ガタガタと震えて、怯えるズーデル。

「蹴らないでよぉ……なんでもするから、助けて……助け――」

 ズーデルの声が途絶えた。かと思うと、彼は勢いよく膝立ちになった。その目は虚ろに見開かれ、天を見上げていた。口もぱかりと開けている。その姿で硬直してしばらくすると、目も口も閉じられてがくりと項垂れて、また固まった。

 するとズーデルから気配が消えた。

「気配が、消えた?」

「……命尽きたってことかい?」

「そこまでの負傷はしてないはずだけど。病気を持ってた、とかかな……っ!」

 突然に、その気配が戻ってきてセラは身構えた。

「っはーっ!」

 突然に、ズーデルが息を吹き返した。

「やっと……戻ったよ……」ズーデルがセラに墨を差したように思えるさっぱりとした青を向けた。「舞い花ちゃん!」

 異変。セラもユフォンも気づかないわけのない異変が起きている。

 ユフォンが叫ぶ。「色が!」

 彼だけが。

 彼だけに、色が。

 戻っていた。

「ん? そう言えば、なんで生きてるのさ。俺が殺してあげたよね、舞い花ちゃん。後ろから、ぶすりとさ」

「夢でも見てたんじゃない?」

「……へぇ、そっか。そういうことにしておいてあげるよ。どうせまた死ぬんだけどねっ」

 ズーデルがセラとユフォンに向けて手を突き出した。

 陽炎が二人に迫る。

「終の権っ!?」

 セラはすぐさまフォルセスをしまい、ユフォンの腕をとって踵を返した。全速力で走り、すぐに横道に転がり込んでやり過ごす。

「そんなの意味ないのに」

 姿は見えないが、すぐそばでズーデルの声が聞こえた。次の瞬間、迷宮が鳴動し、二人の足場が後方へと動き出した。

 二人はさっきまでいた道に戻された。ズーデルが爽やかに笑んで再び陽炎を二人に放った。

 すぐにまた横道に入ろうとした二人だったが、そこにあった道は壁に塞がれていた。

「え、なんで!?」

「場の権……」

 セラは迫る陽炎を見やる。そしてすぐさまユフォンの手を取って、直線となった道を駆ける。どこにも横道が見当たらない。二人が走り出すと陽炎はゆっくりになり、ズーデルはまるで楽しんでいるようだった。

「さあ、いつまで走り続けられるかな」

 またしてもすぐそばで話しているようにズーデルの声が聞こえた。嘲笑混じりの声だった。

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