277:Black
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夢を見た。予見かと思ったが違った。誰かに語り掛けられていた。
夢の中、意識が明瞭になると、黒い空間に漂っていた。
『総代である君自身の力を信じるんだ』
『大丈夫。すべてがうまくいくさ。俺がそうだった』
『なんなら力を貸すぞ?』
その声はじんわりと、心に染み込んできて、心地よかった。
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戸惑った。でも気分がよかった。
恐怖を与えることには、たまらない爽快感があった。
でもやっぱり、自分のことが自分で怖くなった。自分が自分ではない気がした。
幸せを求めることに、恐怖は必要なかった。
もうこれ以上は必要ない。これからは今まで通りでいい。
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『甘さが招いた結果だぞ。お前の甘さが』
そうか。
じゃあ、やり直そう。
『その心意気だ』
『俺が協力できればいいんだが、できそうにない。だから、協力者をつけよう』
『君たちとは違う根源を持つ、俺の子二人を。そう、いわば異端児だ』
『無責任に消え去った白の影響を受ける君、そして君に仇為すあいつらに引けを取らない存在だ』
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『今はゆっくり休め。この水晶の中で憎しみや怒りを育てるんだ』
『俺はひとたび、二人と共に消える。時が来るまで』
『俺たちのことを忘れ去ることになるが、それも一時のこと。時が来たならば、再び君の前に俺たちは現れる。そして思い出すだろう』
『安心しろ。俺は傍で君を見守っているから』
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死。
死の樹を経由して白の造った樹へ移動した。
死に興味を持つ者がいた。そのものを最初の拠り所にし、白の造り出した民を唆しはじめた。
民の中に二人、強い力を持った兄妹がいた。最初の計画がうまくいかなかったときのための保険として、兄を標的にし、徐々に、徐々に、手中に収めていった。
計画を一つしか用意しないのは愚か者のすることだ。
民が三つに分かれた。
頃合いを見て、死の神を使い、神々を唆した。
やつが出てくることを望んだが、そうはならなかった。だが収穫はあった、黒き輝きを持つ兄が、覚醒した。
計画を移行した。
彼に二人の部下を与え、想いのままにやらせた。
強くなる想いが、その願望が、成就した暁には彼は俺の門となるだろう。
俺のすべてがこの樹に移れば、やつを探し出し、幻想の種を完全なものとすることなど造作もないこと。そして幻想の大樹は俺のものとなる。
彼が封じられた。やつも裏で動いているのだろう。そううまく事は運ばない。
だが問題はない。気長に待つことも重要だ。
待ちながら、別の手も打つ。
回収しておいた神々に殺された白の民の精神に、別の肉体を与えて軸に戻した。そしてそれとなくいくつかの使命を与えた。
彼がわずかだが封印から抜け出た。期待通りの逸材。想いの強さに自分の執念を重ねる。
彼が組織した軍団に死の研究をする者が招かれる。必然だった。その者の意識の中に俺は潜んでいたのだから。彼からは、俺に変に頼らないよう俺の記憶を消しておいた。だがそれでも無意識に求めることはわかっていた。
手出しも助言もしない。見守るだけで、彼の想いのままに任せた。
彼が少し力を取り戻した。そして俺の存在に気付いた。研究者から彼に意識を移し、二人の部下も呼び込んだ。
それからしばらくして、彼のもとに、転生を繰り返した彼の同胞たちが姿を現した。
力と故郷を取り戻した彼だが、まだ門になるには不十分だった。
かつての暮らしを取り戻した時が、その時だろう。
彼の想いの成就も、俺の望みの成就もそろそろだろう。
昂りに舞い上がることなく、着実にいこう。
不安要素がないわけではないのだ。
やつの手先とも思えた彼の妹や娘も、彼には及ばなかった。それはいい。だがやつ自身がまだ姿を見せていない。その静けさが末恐ろしい。
なにを企んでいる。諦めるなど、貴様らしくもない。最後まで抗って死んだあの様を、もう一度見せてみろ。
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