27:凪
「セラは、どこだ」
包帯のズィーが、半透明のズィーに問う。
「は? セラならとっくに見つけただろ?……てか、ここホワッグマーラか? 海底遺跡だろ」
若いズィーは今度は辺りを見回した。そうして後ろを振り返ると、ジュメニと目が合った。
「あ、ジュメニさんじゃん。なに? これ、どゆこと?」
「……えっと、ズィプくん……それはわたしが聞きたいんだけど?」
「セラはどこだ」
「あん?」若いズィーは再び包帯の自分に目を向ける。「さっきからなんなんだよ、お前。てか、誰だよ。俺かよ、その格好。なら包帯だらけとかおかしいだろ。俺はそんなに怪我するほど弱かねーぞ……ん?」
文句を垂れながらも若いズィーは、包帯ズィーの背中に愛剣がないことに気付く。
「んだよ、やっぱ偽もんだな。スヴァニも持ってねーじゃん、お前」
鼻で笑って、若いズィーは背中からハヤブサの名を持つ剣を抜いて、包帯にその切っ先を向ける。
「俺の真似すんなら、まずスヴァニだろ」
「セラは……どこだ!」
包帯のズィーが凄み、空気が騒いだ。
「だーっ! 意味わっかんねーだよ!」
若いズィーが苛立ち、スヴァニを横に振った。
空気が静まった。
風が止んだ。
エメラルドを瞳に宿したセラは、フォルセスを岩肌に突き立てると諸手を広げた。
「太陽の子直伝、天晴の印。そして、北風の子直伝、寒風の印」
セラは身体の前で握り拳の甲を上下に重ねた。
するとセラの両手を暴風が包んだ。
それを見て、ゼィロスは呟く。「これはオクチュリアの印の技術か」
「なに? どういうこと、これ!?」
凪いだことで、竜巻状の身体となって宙に姿を現すこととなった空気人間の少年。驚きで、身体がざわめいている。
「外在力がよく効くなら、風の力も当然聞くよね?」
セラは空気少年に尋ねるように小首を傾げて見せて、それから術式による足場を用いて少年に向かっていった。
「うわっ、なにその手! さっきのより痛そうなんだけどぉ!」
さらに高くセラから離れようと浮かび上がっていく気体人間。
そこでセラは駆け上がるのをやめて、花を散らした。
少年の背後だ。
「えっ!?」少年はセラに殴打され、地面に落ちた。「ぐああ……」
セラが少し遅れて着地する。
「……いてて…………負けかぁ~」
少年は潔く負けを認め、セラに向かってブレスレットが光る腕を伸ばした。
「わたしがもらっていいのかな?」
セラはゼィロスとドードにどことなく申し訳なさそうな視線を向ける。
「まあ、ここはお前でいいだろ」
「むぅ~……俺の見せ場、取られた~」
ゼィロスは小さく肩を竦め、ドードはむすっとして顔を逸らした。
それを見てセラは少年の腕に手を伸ばす。
「これって、どんな仕組みでついてるの?」
セラはそんな疑問を誰に聞くでもなく呟きながら、少年のブレスレットに手を触れた。これで彼女の持つブレスレットは三つだ。
「よーし、じゃあ続きやりましょう!」
ブレスレットがセラの腕に移るのを待って、ドードが番刀を突き上げた。
「竜巻の君もまだ戦えるっしょ?」
「うーん、まあ動けるけど……」
気体人間の少年は地面に胡坐をかいて、首を振る。
「俺はやめとく。このお姉さんにはもう勝てそうにないもん」
「諦めるんすか?」
ドードは納得いかなそうだ。
だが少年はまたも首を振る。表情は見えないが、体を形作る竜巻が穏やかになったようにセラには見えた。まるで笑っているようだと。
「違うよ。諦めてないからこそだよ。予選を通過して、決勝でこのお姉さんにリベンジするんだ。そのために、ブレスレットを集めるんだ!」