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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
断章 黎明記
275/387

272:Before Zero Point 7

 ヴェィルの世界創造に端を発して、民は三つに分かれはじめた。

 世界を造りその地を納める者。自身では世界を造らずとも、母なる地から旅立つ者。そしてこれまで通り母なる地で暮らし続ける者。

 最初の頃こそ、それぞれに交流を持っていたが、時が流れるにつれて、母なる地の者と外の世界の者の間の繋がりは希薄になっていった。

 一年。

 世界を造り移り住んだ者は、その世界で生まれた人間に、神と呼ばれる存在となった。

 二年。

 母なる地の外で生きる神以外の旅だった民を遊界の民と呼び、母なる地に生きる想造の民と区別した。

 三年。

 遊界の民への三権の恩恵が薄らぎはじめた。

 四年。

 恩恵を求め、遊界の民の数名が『想い送り』をするために母なる地を訪れるようになった。

 五年。

 神たちが神となった代償を知る。

 六年。

 数名の神々が、三権を求め母なる地へ攻め入る。



 それは突然のことで準備をしていた者などいなかった。

 家屋は崩れ、火に包まれた。大地はめくれ上がり、空気は刺すように吹き荒んだ。攻撃の音はとめどなく流れ続け、民の悲鳴すら掻き消していた。

『想い送り』がはじまるより前の時間だ。そもそも寝ていた民がほとんどだったことだろう。悲鳴を上げることすらなかったのかもしれない。

 ヴェィルは襲撃の寸前にパッと目を覚まし、なんとか自身を護った。家は崩れ、瓦礫に埋もれたが、彼は無傷だ。

 粉塵に遮られる朝の光。

 なにが起きたのか、一瞬わからなかった。ヴェィルはまず妹の安否をすぐに知りたくなって、彼女のベッドがあったすぐ隣に目を向けた。

「フェル!……大丈夫か! フェル!」

 返事がなかった。

「っ……!」

 自分しか護らなかった自身を恨む。いや、それにはまだ早い。

 ヴェィルは想造の力で家を元に戻していった。そこにフェルがいれば、そして命があれば、回復させることなど容易だった。


 元通りになった家の中に、フェルの姿はなかった。


 ヴェィルは呆然と呟いた。「フェル……」

 これが死というものなのか。

 死というものの知識はあった。しかし、その経験が彼、もとい想造の民にはなかったのだ。死ぬということは、その人物がいなくなるということだとしか、知らなかったのだ。

 想造の民は三権の恩恵により、不老であり、天命がない。終わりである死はあったが、大抵のことでは命を落とさない想造の力を持った彼らには、実質、死は言い伝えのようなものだった。

 フェルはいなくなった。

 これが死というものなのか。

 ヴェィルは大きく(かぶり)を振った。

 ――俺が直前で目覚めたんだ。フェルもきっと。

 ヴェィルは身を護った。対してフェルは、逃れた。ヴェィルはそう考えることにした。妹はどこかに逃げ出したのだと、自身に言い聞かせた。妹を信じた。

 フェルは大丈夫だ。ならば総代である自分がやるべきことは、他の家族を護ることだ。



 ヴェィルは光の広場を目指した。

 道中、この奇襲が神となった者たちの仕業であることを知った。神となって姿を変えたかつての友が、ヴェィルが今までに見たことのない、想造とは違う力で故郷を壊していた。

 どうして。

 疑問は一瞬だった。

 すぐに怒りに顔を歪めた。身体の中から、熱が沸き上がってきた。

「ふざけるなっ!」

 近くにいた屈強な上半身を露わにした男の神の背に、ヴェィルは出現させた剣で斬りかかった。

 硬かった。斬ることを目的とした武器が、その役割を果たせなかった。

 振り返る上裸の神。瞳は真っ白だが、面影のある顔にヴェィルはその男の名を呼ぶ。

「ヨコズナっ……!」

「ふん、貧弱っ!」

 刃を手で掴むと、握って砕くヨコズナ。それにヴェィルが驚くのも束の間、白い眼が彼を見た。途端、揺れるような感覚に襲われ、ヴェィルは乱回転と共に吹き飛んだ。

 地面に何度か叩きつけられたのち、誰かに受け止められた。

「ヴェィル、なにが起きてる! あれはヨコズナか?」

「それに、他にも神がいるな。……そういうことなのか?」

 ロゥリカとコゥメルだった。二人の疑問に、ヴェィルは怒りのままに応える。

「ああ。あいつら、勝手が過ぎる! 話し合いだってできたはずだ。でもそうしなかった! 俺は許容したはずだ! 背を向け合って、想い合えないっていうなら、正面切ってぶつかるだけだ!」

「……あ、ああ」

「わかった。俺たちもそのつもりだ」

 ヴェィルは二人の先頭に立って、ヨコズナを睨む。

「行くぞ、ロゥリカ、コゥメル。護るぞ、俺たちの世界。俺たちの家族。俺たちの三権を!」

 両手に剣を握り、ヴェィルは駆け出した。

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