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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
断章 黎明記
273/387

270:Before Zero Point 5

 ヴェィルの提案への答えは、一週間後の『想い送り』あとにということになった。みんなが帰るのを見送りながら、フェルは兄に問いかける。

「兄さん……『彼』に相談して出した答えなんだよね?」

 どこか気負った演説に、昨日消した不安がフェルの中で再燃していた。問わずにはいれなかった。

「ああ、うん。いや、『彼』にはなにも言ってない。俺が自分で決めた。なんでもかんでも『彼』に頼るのはよくないだろ。それなら『彼』が総代でいいわけだし」

「……それはそうだけど」

「どうした、フェル? もしかして、悪い方向に行ってるか?」

「ううん、今回のことに関しての予見はないよ」

「じゃあどうしたっていうんだ。いい解決策だと思わないか」

「それは、やってみないとわからないよ」

「なんだよ……嫌味な言い方だな。どうしてそんなに機嫌が悪い」

 フェルは俯いて押し黙った。どこからともなく悲しさがやってきて、こみ上げてくる。口を固く結び、それから短く息を吐いた。

 顔を上げる。

「わたしも総代なんだよ? どうして一人で決めちゃったの?」

「ああ、それか……」ヴェィルはバツが悪そうに頬を書いた。「確かに一言もなしに勝手したのは悪かった。謝るよ。でもな、フェル。俺はいいと思って提案したけど、そもそもみんなが賛成してくれるかもわからない。それにお前が言うように結局ところはやってみないとわからない。そしてもし失敗したときに、責任を取るのは一人でいい。それが俺だ。その時はお前に俺の失敗のしりぬぐいをさせちゃうけど、それでもその先に進むには、総代が必要だ。そして、それがお前だフェル」

 両肩に手を置かれ、信念に満ちた青い目に見つめられたフェル。有無を言わさない、頼りがいのあるものにも見えるが、同時に無謀な狂気を孕んでも見えた。フェルを見ているようで、どこか遠くを見ているような。

「うん」

 フェルは努めて微笑んで頷いた。

「わかった。兄さん。兄さんを信じるよ。ごめんね、なんか拗ねて」

「いいんだ。伝えておかなかった俺も悪い」

 ヴェィルの手がフェルの肩から離れる。微笑みを返してくれる兄は、いつも通りだった。

「じゃあ、わたしフュレイのところ行ってくるね。昨日貰い損ねちゃったお茶、貰ってくるから。夜、楽しみにしててね、絶対気に入ると思うよ、兄さんも」

「昨日言ってたやつか。うん、わかった。楽しみにしてるよ」

 手を振りヴェィルの元から離れていくフェル。

 ――『彼』に相談しなくちゃ。



 フェルが去ると、ヴェィルのもとにロゥリカとコゥメルが寄ってきた。

「様子を見るんじゃなかったのか」

 コゥメルがどこか不貞腐れたように言うと、ロゥリカが訝るように続く。

「こんなにすぐに考えを変えるなんて、なにかあったのか?」

「二人に言われて、俺も色々考えたんだよ。総代としてのどうするべきかを。その答えが今のだ。と言っても俺だけで決めるのは違うから、提案って形にしたけどな」

「反対したら、やめるのか?」

 ロゥリカの言葉に、ヴェィルは二人を眺めてから言う。

「二人くらいの反対だったら、やめない。もちろん大勢が嫌だって言えば、やめるよ。その時はまた別の方法を考える。とりあえず今はやってみよう。それが俺の想いだ」

 ヴェィルは優しく言いながらも、二人を威圧していた。無意識だった。二人が息を飲んだことで、ようやく気が付いた。

「そ、そうか」コゥメルが引きつった笑みで頷いた。「総代の想いが向かう方へ、俺たちの想いも向かう。なぁ、ロゥリカ」

「ああ……そうだな。総代らしくなったじゃないか、ヴェィル」

「っふ、それ褒めてんのか?」

 ヴェィルが笑って返すと、二人はきょとんと呆けた顔をした。

「ん? どうしたんだ? あ、まさか、ロゥリカ、本当に馬鹿にしてたのか? なぁ?」

「あ、いや……」ロゥリカは困ったように笑ったかと思うと、ヴェィルの肩を軽く小突いてきた。「そんなわけないだろ。いつもの冗談だろ」

「脅かすなよ、もぉ。本気かと思っただろ」

 ヴェィルがロゥリカの肩をはたいて笑うと、コゥメルとロゥリカは視線を合わせて、それからいつものように笑った。



 それから一週間が経ち、ヴェィルは光の広場で想造の力を世界の外に向かって発揮していた。

 ヴェィルの提案は民に受け入れられ、今彼は誰よりも優れた想造の力をもって、世界想造を試みているところだった。外での暮らしを望む者への協力。その第一歩だ。

 そして。

 世界が一つ、誕生した。

 これには世界創造を望まなかった者までもが歓声を上げた。可能性の広がりは、誰もが喜ぶべきことなのだ。

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