表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第一章 ホワッグマーラの変
27/387

26:紅蓮の対峙

「ズィプくん……!?」

 ジュメニは知り合いの登場に構えを緩めた。だがその瞬間、遺跡を強風が吹き抜ける。

 次いで空気が大きな塊となって、ジュメニとシューロに迫る。

「ジュメニさんっ!」

 シューロがジュメニの前に躍り出て、障壁のマカを張った。

 空気の塊が、魔素の壁を強かに打つ。そして、へし壊す。

「うあっ!」

「ああっ!」

 シューロとジュメニは共々、吹き飛ばされた。しかし地面に伏すことはなく、二人ともきれいに受け身を取って、すぐさま立て直す。

 ジュメニは今一度、ズィーに目を向ける。

 所々に包帯を巻いている。左腕にはブレスレット。そして剣は手にも背にもない。その三点を除けば彼女の知るズィプがいる。二年前に会った時と変わらない姿で、そこに立っている。

「その包帯……もしかしてセラちゃんが言ってた、ウィーズラルのフォーリスに『夜霧』の博士が使ったっていう、死者を生き返らせるってやつじゃ……」

「死者を、生き返らせる? なんですか、それ……!?」

 シューロは青ざめ、眉を顰めてジュメニに目を向ける。

「詳しいことはわたしにもわからない。でも、セラちゃんが言うには、普通には殺せないし、フォーリスは外の世界で無限にマカを使えたらしい」

「それって、異常じゃないですか」

「そうだ。もしあの包帯がそうなら、ズィプくんも異常だ。気を抜くなよ、シューロ」

「はい」シューロは固唾を飲んだ。「ジュメニさん」

「セラはどこだ」

 空気を纏ったズィーが、その拳をジュメニに振りかざす。

「さあ、わたしにはわかんないよっ」

 ジュメニは父と同じく魔闘士には珍しい剣を抜き、魔素を張り巡らせてズィーの拳を受けた。それから、ズィーの身体に魔素の綱を巻き付ける。

「シューロ!」

「はい!」

 シューロが火炎が盛る拳でズィーの脇腹を打った。

 きれいに入った。

 しかし、ズィーには苦悶の声も、表情もない。

 転じて、身体に力を巡らせると魔素の綱を破り、その勢いに乗せた空気で再び魔闘士二人を吹き飛ばした。

 今度は二人とも受け身を取ることは叶わず、遺跡の床に転がる。

 そのただ一度の衝撃に、ジュメニとシューロは立ち上がるのがやっとというほどまでに体力を奪われた。

「……なに、この強さ」

「やっぱり、あの包帯が…………」

 ジュメニはふらつきながら、紅の騎士へと向かっていく。

「ジュメニさんっ、駄目です、退きましょう……!」

 シューロは歩むジュメニに向かっていく。彼もまた、足取りは不安定だ。

「駄目だ! これはわたしの仲間の死への冒涜だ! わたしが、開拓士団護衛隊の長として、亡き仲間を安らかに眠らせなきゃいけないっ!」

 剣を空で振るうジュメニ。彼女の身体に(いかずち)が閃いた。

 バチチ、バチチと連鎖的に爆ぜて、ついにはジュメニの三つ編みをふわりと浮かせる。

「ジュメニさん、それ、予選じゃ使わないって……」

「そんなこと言ってる場合じゃないっ!」

 バチン――。

 ジュメニの姿は紫電の切れ端を数本残して、消えた。

 遺跡を雷鳴が揺らした。

 その音の切れ間。

 ジュメニがズィーの真横で、剣を突き出していた。届く距離ではない。が、遅れて、今度は雷そのものが、剣の切っ先から轟音を引き連れてズィーに襲い掛かった。

 焦げ臭さと黒煙が漂い、ズィーの姿を隠す。

 次第に薄らぎ、輪郭が明らかになる。

「っ!?」

 ジュメニは咄嗟に身を引いた。

 決して彼女の反応が遅かったわけではない。

 ただ反撃があまりにも早すぎた。

 ジュメニの視界は眩さに覆われ、次の瞬間には雷鳴が耳に届いた。

「ジュメニさーんっ!」

 傍らで見ていたシューロは、先ほどとは真逆に放たれた雷撃にただ叫ぶことしかできなかった。



 海底遺跡に放射状の焦げ跡が鏡映しのように、二つ。

 どちらも両端の方が濃く、中心は全くと言っていいほど黒くなかった。まるでそこをなにかが遮ったかのように。

 黒煙が退場して、シューロには包帯を巻くズィプガルとジュメニの姿が見えてきた。

 二人とも雷による外傷は全く見て取れない。

 そして、ジュメニの前にもう一つ、薄っすらと人影があった。

 それはシューロが知る、六年前の『紅蓮騎士』の姿だった。同い年だった彼が、今の自分よりも若い、当時の姿で。

「どうなって……」

 それ以上、言葉が出ない。シューロはだらしくなく口を開けていることしかできなかった。

「……どうなってんだ、これ? 俺、服着替えたっけ……てか、俺?」

 背景を透かす若い姿のズィー。当の本人である彼もまた、状況を理解していないようだった。自身と、目の前にいる自分を困った顔で何度も見比べていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ