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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
253/387

250:白のなか想うは

 ユフォン・ホイコントロは真っ白な空間から、二つの小窓を何度も交互しながら見ていた。

 辿り着く先は知っている。けれどもそれぞれで展開する戦いにハラハラするばかりだ。

 エレ・ナパスにエァンダとサパル、それからズィードを除いたさすらい義団が到着した。しかし、連盟の増援はまだなのかと、気持ちは急く。

 アズにおいてはズィード現れたことに対しても、やっとかと思ったほどだった。だが現状においてはハツカは、ムェイは、まだなのかと思うばかりだ。それから――。

 と思っていたところに、背後から声をかけられた。

「手に汗握らなくても、大丈夫よユフォンくん」

 フェルだ。

「いや、でも、フェルさん。あなたはこれを長いことやっていたからもう慣れているかもしれませんが、僕ははじめてで、いくら結果を知っているからって、落ち着かないですよ……!」

「わたしだって落ち着かないわ。これまでずーっと、一度も落ち着いて見れたことなんてないのよ、これでも。そしてその気持ちの理由はあなたと一緒よ」

「僕と一緒……?」

 ユフォンはアズを覗く小窓に目を向ける。そこにいるのは愛しの人だ。兄の身体を乗っ取った父に押さえ込まれている、セラだ。

「いくら結果がわかっていたって、大事な人が傷ついているのを、じっと見ていることなんてできないわ」

「……セラ」ユフォンは小窓に手を触れる。「そばにいれなくて、ごめんよ。もう少しだからさ、頑張って」

 小窓に触れる手に光る碧き宝石。それをもう一方の手で、祈るように覆う。

「その想いは絶対セラに届いてるわ」

「はい」

「ヒュエリちゃんの方も魔具が完成したし、本当にもう少し……それで、全部終わるわ」

 そっとユフォンの肩に触れるフェルの手。その手は温かいものであったが、震えていた。ユフォンは彼女に対して慣れていると言ってしまった自分を恥じた。彼女が言葉にした通りだが、言葉で簡単に説明などできないほど、この辛さを彼女は長い間一人で抱えてきたのだ。

「……はい」

 ユフォンはおこがましくも彼女への労いを込めて、優しく頷いた。



 プッシューっと扉が開いて、チャチが出てきた。

 アレスは小人の娘を掌で救い上げ、顔を近づけた。

「セ――」

「問題ありませんでした!」

 長い髪をわさっと躍らせ、チャチは満面の笑みでアレスが欲しい答えをすぐにくれた。

「そっか……」

 顔が綻ぶアレスに、声がかかる。

「アレス」

 笑みを湛えたムェイだ。その笑みがすぐに真剣な表情に覆われる。

「行ってくるね」

「ああ、行ってこい。セラ様を頼む。あと、ちゃんと帰ってこいよ」

「うん」

 そして、碧き花が舞う。



 少し火照る身体。

 万全とは胸を張って言えないが、これ以上セラを一人にはしておけない。苦しい戦いを強いられている。ヴェィルの強大さではない。兄妹としての苦しみだ。ノアの身体を相手に、セラの本気はきっと本気ではなくなっているはずだから。

「今いくよ、セラお姉ちゃん」

 そして、碧き花が舞う。



 碧き花が舞う。

 朝焼けと夕焼けの一閃が交差して、夜の閃きを斬る。

「セラお姉ちゃん!」

「セラ!」

「ハツカ、ムェイ……」

「さっきから仕組まれたように現れる」三人から離れた場所に黒き閃光を伴って立つヴェィルが独り言ちた。「覆すか……」

 きっと三人に目を向けるヴェィル。三人が睨み返すと同時に、そのノアの瞳に黒が揺蕩った。そして、全身に黒きヴェールが纏わる。

 想造の民は、想造の力をヴェールなしで扱う。これはフェルが言っていたことだ。ではなぜ、ヴェィルはヴェールを纏うのか。

 想造を絶する力。

 ヨコズナが言っていた、ヴェィルの脅威。

 神々との戦いで目覚めたという力。想像の民はもちろん、神の原点でもある想造の力を無に帰す力だという。

 ヨコズナの物言いから、完全復活しなければ使えないものだとセラは考えていた。ここまで使っていなかったのも、ノアの身体ではそこまで到達できないものなのだと思っていた。

 だが違った。

 ノアの身体でも可能なのだ、無理をすれば。

 そう、無理をしている。

 場を圧する雰囲気を醸し出すヴェィルであったが、その表情はここまでの余裕はなかった。軽く歯を食いしばり、眉間に皺を寄せる。

 それはつまり、ノアの身体にとってもいいものではないということだ。

 早く戦いを終わらせなければ。

 セラはハツカとムェイの後ろで立ち上がる。その瞳、そして身体にはエメラルドがぶわっと吹き返す。そのままセラはハツカとムェイの間を抜けていく。

 身体を強張らせながらも、ヴェィルも歩み出す。

 次の瞬間には、親子は剣を交えた。

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