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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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248:前夜祭

 ブァルシュが花を現してからすぐ、エレ・ナパスに二十九の気配が入り込んできた。囲まれた。

 エァンダが細くしたエメラルドで辺り見回すと、雑多な人種を映すことができた。

「ロゥリカ」

 現れた人間の中でひと際目立つ白く輝く老人がブァルシュを見てそう呼んだ。彼と彼の後ろに控える男は身に着けた白き衣を鮮血で汚していた。後ろの男は、胸部に円形の装置が覗き、口元を紫の髪で隠す。グース・トルリアースだった。それを見たゼィロスの思念が動揺するのをエァンダは感じ取った。

「こっちはこの老体だぞ。化身の相手ぐらい一人でやれよ」

 しわがれた声には似合わない、若々しい物言いで悪態を吐く老人。対するブァルシュはそれに小さく笑う。

「少し早くなったくらいで怒るなよ、コゥメル。人を殺してきておきながら」

「四人のうち三人をやったのは、ここにいるグースだ。彼も満足な肉体ではないんだぞ」

「そうか、それは悪かったな。けど、来たからには仕事してもらうぞ。みんなもいいな?」

 問われた者たちは各々に反応を示す。

 大鎌を携え、大きな翼を羽ばたかせる男。「ふんっ、クソ野郎どもを相手にするより楽勝、楽っしょ?」

 髪が炎でできた男。「てか来てないやつもいるじゃん。それってずるくない?」

 薄衣に上半身を透かす男。「遅れてんだよ、きっと。きゃはは」

 額に触角をもつ女。「ノージェ……」

 鋭利な四肢を持ち、四つん這いになる男。「早く元の身体を取り戻してぇなぁ」

 だらしなく口を開け、そこから大きな舌を垂らす女。「ほんとよねぇ、まったく」

 小石の集合体の男。「ま、前夜祭ってことで――」

 などと言葉を発する者もいれば、なにも言わずに戦闘態勢に入る者もいた。

 そして小石の身体の男の言葉はまだ続いていた。

「いっちょ盛り上げてみようかぁ!」

 小石の集まった身体は爆ぜて、周囲に飛び散った。かと思うと、小石一つ一つが人の形を成してく。そして最初に集合体がいた場所にはつるりとした光沢を持つ石男が立っていた。

『さすがにこれだけの数、エァンとワタシでも無理ね』

 タェシェがエァンダに喋りかけてくる。

『ゼィロスとサパルなんてついでだし』

「ついでとか言うな。サパルが来てるんだ、連盟の増援もすぐだろ。それまで耐えるさ」

「化身くん。君は勘違いしているな」石男はやれやれと首を振る。「俺の分身は君の相手はしないさ。知らないようだから教えてあげるけど、化身の力を弱めるにはその世界にある命を狩っていくのが一番なんだよ」

 小石から生まれた人型は一斉にミャクナス湖畔から町の方へ駆け出していった。

「っ!?」

 エァンダは目を見開くがそれだけだ。これくらいで動揺はしない。すぐに石の軍団の行く手を阻むように群青の花で波を巻き起こす。

「おいおいっ、んなことしてる場合じゃぁねえっしょ!!」

 エァンダの視界の端に刃の光沢が映った。咄嗟に上体を後ろに曲げて振るわれた大鎌を躱した。かと思えば次いで大きな翼が彼の身体をはたいた。砂浜に転がるエァンダ。小石軍団に目を向けると、まばらになった花びらたちをかき分けて、先へ抜けてられていた。

 ゼィロスとサパルが向かおうとしているが、小石の一体一体が本体の男と同じ大きさの気配を持っていた。一人二人くらいずつならばサパルとゼィロス両名それぞれでも問題なく戦えるだろう。だが囲まれれば終わりだ。二人だけでは荷が重い。

「タェシェ、向こう頼めるか」

 そう言ってエァンダがタェシェを町の方へ投げようとした時だ。

 町へ向かう道から、小石の人型が弾き返された。その先に七つの気配が現れたのだ。六人と一羽。

「ねぇ、ケルバ……わざわざこっちに注意引き付ける必要ってあったの?」

 弱々しい少女の声が聞こえた。ネモだ。

 小石の軍団の動きも止まり、エァンダも含めその場にいた全員が声のした方を、声がする前から向いていた。

 認知操作だ。

 町へ続く道の先。小高い丘の上に彼らは立っていた。額に触角をもつ女がその姿を見て「ノージェ……!」と驚きを零した。

「てか、なんでお前が真ん中に立ってんだ」というダジャールの文句を余所に、当人のケルバがブァルシュたちに向けて声を張る。

「ロゥリカ! 俺はこっち側だ」

「自由にしろと言ったのは確かだが……」ブァルシュが痛ましそうに首を振った。「まさか死を選ぶとは。寝ているか、好きに旅でもしていてくれればよかったのにな。残念だ」

「寝るのは今でも好きだ、一人でも楽しいし。けど、旅はそうもいかないんだよ。仲間とじゃなきゃつまらない」

 ネモの認知操作が切れる。それよりも早く、エァンダは自ら抜け出していた。誰よりも先に動き出した彼は、一番近くにいた大鎌の男の首を撥ねた。

 そして、その急な出来事に場は強制的な集中から解放される。湖畔にいた全員が今度はエァンダに注目する。まず声を上げたのはゼィロスだ。

「エァンダ、こいつらは全員想造の民の転生者だ! ただの多民族の集まりだと思うな!」

「……へぇ」

 エァンダはゼィロスの言葉をそのまま受け入れて、そして自身の足元に転がる大鎌の男の首に目をやる。それから今度はグースと共に現れた老人に視線を移す。

 老人コゥメルの口が動く。


「ロゥリカ」


 場が再現される。

 エァンダとブァルシュ、ゼィロスとサパル。その四人を中央に、転生者たちが周囲を囲む。大鎌の男も現れた時と同じ場所に立っている。ただ、その時とは違うことがあった。

 石の男はつるりと光を反射し、小石の軍団とさすらい義団は町の方角に残ったままだった。

 さすがに使いこなしているということか。

「ま、転生者とかそういうのはいいとして、ブァルシュ……じゃなくてロゥリカだっけ? とにかくあんたが仲間を呼んだ時点で、そいつらが同じ力を使うのは予想できてたよ」

 言って、エァンダはタェシェで軽く空気を払った。反始点を上書きした。

「はぁー」コゥメルが感嘆の声を上げた。「この化身、我らと同じ力を使うのか。ノージェから漏れたのか?」

「いいや」とロゥリカが軽く手をひらひらと振った。「悪いな、俺の協力者からだ。この小僧はあいつの弟子だった。そして二人は戦った」

「おいおい、管理があめーな! だから俺は協力者なんて反対したっしょ」

 大鎌の男は嫌味ったらしくグースを見た。かと思うと、薄衣の男に目を向けてにやけた。

「なぁ、ネォベ?」

「きゃははは、なんで俺に聞くんかなぁ? スジェヲ」

「やめろ二人とも」ロゥリカが咎める。「仲間内で喧嘩しても仕方ないだろ」

「っへ」スジェヲがその大鎌を構える。「じゃあ、仕切り直しっしょ!」

 エァンダに駆け出してくる。エァンダはタェシェを構えながら、ゼィロスとサパルに言う。

「ここは俺一人でやる! 二人は義団と一緒に! それから、ナパスのみんなには逃げるように言ってくれ!」

「ああ」

「任せたぞ」

 サパルとエァンダは小石の軍団を追って駆け出していった。

「一人で俺たちを?」スジェヲが翼で大きく飛び上がる。「舐めすぎっしょ、そりゃよぉ!」

「タェシェ、どう思う?」

『ええ、そうねエァン。舐めすぎなんて、舐めすぎね』

「だな。ヴィクードされないように全員をまとめて倒す。全員のを見といて(・・・・)くれ、時間は稼ぐ」

『もうはじめてるわ。できる女だもの、ワタシ』

「なんだ、できる女ならもう終わってると思ったけど?」

『女の子の準備を待てない男は嫌いだわ』

「刀とお喋りしてる場合かっての!」

 大鎌とタェシェが打ち鳴る。

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