23:フード
ギルディアークの帝ボリジャークはやはり侮れない。感付かれていようとも、監視の目は外せない。
貴賓席ではドルンシャ自身と警邏隊副隊長のパレィジ、それからワールマグの帝クラスタスがそれとなく見張る。さらには貴賓席後方にマグリアの警邏隊員が数名、私服で紛れ込んでいる。
過去、他の都との交流を遮断してきたギルディアーク。帝であるボリジャークが言うように液状人間の事件をきっかけに、考え方を変えて復興にも協力の姿勢を見せた。
ただ友好的になってくれたならそれでいい。しかしと、ドルンシャは観戦を楽しみにがらも憂う。
ホワッグマーラ内での交流がない時代、ギルディアークが関係を結んでいたのは『白輝の刃』だと言われている。
『白輝の刃』が統率者を青雲覇王ズーデルに変え、関係が切れたのか、それとも形を変えたのか。
妙な動きがなければいいが。
妙な風だ。
山岳地帯の崖の上、男はフードの中で訝しむ。
男に纏わりつくよう流れる空気に、マントがうねる。
「ん?」
男は風の動きが微かに変わったことに、背負った大剣の柄に手をかける。
別の場所にもフードを被った男がいた。
その腕には、すでに五つのブレスレットが輝いていた。
残り二つを求めて、轟轟と、だが透き通る川の上を、悠々と浮かぶのだった。
そしてもう一人、フードの男。
対峙するのはプライだ。
二本の剣を構え、険しい顔でフードを睨んでいた。
「まさかお前が参加しているとは……」
「睨まれるようなことはしてないと思うけど、俺」
「白々しいっ」
プライは隻翼で低く飛び、男の横から浮かび上がるように斬り上げる。
「八羽の方が速い。ま、隻翼にしては速いんだろうけど」
男は小さく身を引いてプライの連撃を躱し続ける。息も切らさず、易々と。
「っく」
「そろそろ終わりにするけど、いいよね」
ぶわっと、プライの身体が浮かび上がった。
「なにっ!?」
そのまま男は無防備なプライの腕に自身の腕を伸ばした。ブレスレットがプライから男に移る。
「俺のためにご苦労様、劣等種」
その言葉と共にプライは大きく吹き飛ばされ、行きつく先の見えない滝壺へと投げ出された。
「あっ、これって殺したことになっちゃうのかな? ま、それでも構わないけど」
フードの中で、口角が上がる。
暗く視界の悪い森を、一番近場にあった気配ヘ向けて進んでいると、地面に傾斜がでてきた。深く日光を遮っていた木々も、背を次第に下げていく。ブーツの底が捉える感触も、土から岩盤へと変わっていた。
セラは急になってきた勾配を見上げる。
目指す気配は二つある。
ごつごつとした岩肌の向こう、近づいて詳しく感じることができてくると、一方はよく知る気配だった。
数日前に会ったときはなにも言っていなかったのにと思いながら、セラは一足飛びにナパードでその者の隣へと移動した。
「ゼィロス伯父さん」
崖の上、荒れ狂う風の中、フードの剥がれた男。
ワシの大剣ヴェファーを手にしたゼィロスは、姪の登場に片眉を上げて笑った。
「セラか。やっぱり参加してたな」
「うん。それよりも、わたしは伯父さんがいることに驚いてるんだけど?」
「あとで話そう。今はこの風使いだ」
「風使い? ほんとにそう思ってる?」
「なに?」
「気体人間でしょ?」
姪の指摘に、伯父は口を閉ざした。