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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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228:竜人の本気

「こういうまどろっこしいのは性に合わないだけどな」

 テムは背後からするバーゼィの声を辛うじて聴いた。

「だってそうだろ? そうしなくても普段は勝てるんだから。でもよ、今回は別だ。メシ以外が鬱陶しすぎだ」

 テムの腹から獣の腕が抜けた。

「ァ……っふ…………」

 呼吸もままならず、地に伏す。身体が急激に寒くなる。

「テムぅーっ!」

 ハツカの叫び声を聞いたのを最後、テムの意識は途絶えた。



 ケン・セイは弟子の気配が急に小さくなったことに攻撃の手を止めて、そっちを見た。

「ばかな……」

 今まで自分が攻撃していたもの目を向けると、そこにはなにもなかった。右腕や両脚には攻撃の感触がしっかりと残っているにも関わらず。

「お前は誰を殴ったり、蹴ったりしてたんだろうな?」

 倒れたテムの方からケン・セイに向かってくるバーゼィ。不敵に笑んだ。途端、ケン・セイは総毛だった。寒気がせり上がってきた。

 だが、口角を上げた。

「己の力、どれほどか。知る、いい機会っ」

 言い終えたと同時にケン・セイの身体を爆発的な衝撃が襲った。

「ぐぅぅぅぅ……!」

「お師匠様っ!?」

 ハツカの心配そうな声が聞こえたが、応えている余裕はなかった。今はとにかく耐えなければならない。耐えて、水馬で返すことができれば、もしくは――――。

 思考の途中でケン・セイは、彼自身の強さを実感した喜びと、己がまだまだ未熟である無念を味わった。



「テムっ! お師匠様っ!」

 返事がないのはわかっていても、ハツカは叫ばずにはいれなかった。絶望に飲み込まれて自分が折れないように、奮い起こす。

 早くバーゼィを倒して、二人を回復できる場所へ運ばなければ。二人の気配が消える前に、終わらせる。

 ハツカは纏っていた黒を、身体に染み込ませる。もうこれしかない。四ヶ月の修行では至れなかったが、この窮地に暴走せずに制御できるかもしれない。しなといけない。

 認知しろ。

 自分は神の血を引いている。

 神の名はザァト。

 玉の緒の神、ザァト。

 ――お父さん、みんなを護れる力を貸して!

「へえ、美味そうになったじゃねえか。喰いてぇ」

 バーゼィがハツカに向かってきた。

 肌が黒くなり、瞳から黒が退く。青玉(サファイア)白金髪(プラチナ)が際立っていく。その最中、濃さを増していくようにも思えるそのサファイアに映るバーゼィが消えた。

 突然の出来事に、ハツカから黒が抜けていく。「なに?」

 なにかが、大きな衝撃がバーゼィを横から襲ったようだった。森の木々を倒していき、その軌道だけがハツカには窺えた。

「ハツカぁああーっ!」

 空から妹の声が降ってきた。視線を向けると、身体を丸めたイソラが回転しながら飛んできていた。そのままハツカの傍にきれいに着地した。

「イソ、うあっ……!」

 ハツカとイソラの間を突風が通り抜けた。とてつもなく大きな気配と共に。唖然とする中、その気配がデラバンのもだと気付くハツカ。自分のことに集中していて全く気付かなかったのがおかしいくらいに、巨大な気配だ。

「今のデラバンさん、なの?」

「うん。竜人の本気! じゃなくて、そうなんだけど、それよりお師匠様とテムっ!」

「あ、うん!」

 ハツカは森の中で二つの気配がぶつかり出したの感じ取り、デラバンがバーゼィと渡り合っていることに驚きながらも、彼に感謝するばかりだ。この隙にケン・セイとテムを安全な場所に運べる。イソラと手分けして二人を一か所に寝かせる。

「すぐ戻ってくるから!」

 ハツカはイソラを残し、師と兄弟子と共にトラセークァスへと跳んだ。



 竜人を受け入れてくれたヒィズルへの恩を返す時は今だ。

 小さな滝のある岩場。デラバンはバーゼィに投げつけ、その腹に刺さった竜骨の鉾を抜いた。慰霊碑としてヒィズルの地に刺さっていた逆鉾だ。籠った竜人たちの想いと共に恩地恩人の敵を討つ。

「こん、どは……」バーゼィは傷を塞ぎながら立ち上がる。「なんだよっ……!」

「お前は竜の逆鱗に触れた」デラバンは鉾を構え、バーゼィを鋭利な竜の眼で睨む。「生きて帰れるとは思うな」

 もともと竜人の中でも逞しかったデラバンの身体だが、今は酷く痩せ骨ばっている。これが竜人の本気。逆鱗状態である。

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