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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
221/387

218:三度目

 ユフォンの部屋に戻ったセラは、ベッドの上に座す。

 瞑想。

 間を置くことなく、彼女は意識の底に立っていた。

 碧き空間で今一度、想造について、ヨコズナの試練について、考える。

 フェルはセラに対して、あとは慣れるだけだと言った。ただ、想造の民はヴェールを纏うことなく知っている技術を使えるとも、それ以前に言っていた。セラが半血だから、そこまで至れないのだと判断し、ヴェールの状態への慣れを完成形と見たのだろうか。ただ、彼女がそのことをセラに口にしたことはない。ヨコズナの試練を受けるときも、ヴェールを纏わないことが完成形のように話していたのだから。

 そこでセラはヨコズナの言葉をいくつか思い返す。

 ヴェールを纏い、物質を生み出すことをフェルから教わったあと、ユフォンたちを助けに行く前には。

『未熟だ。まだ褒めるには早い。反動があるようでは、ヴェィルには勝てんぞ』

『想造をものにしてこそ完遂。我の試練は終わらぬ』

 反動があることが未熟なのだと思っていた。けど、違うのだろう。そして試練は終わってない。

 次いで浮かぶのはもっと前、一度失敗し、再度試練を受けるときの言葉。

『現在の力を取り戻し、過去を巡り力を高め、失い、未来を手にしろ』

 意識の底に技術を落とし込み、馴染ませた状態が一節目。意識の底でも過去の人たちと剣を交えたが、二節目の過去を巡りというのは、きっと失われた神々のことだろう。

 ここまでは体験した。

 だがその先。『失い、未来を手にしろ』この一節までが試練だというのなら、セラは想造を手にしてからそれを失ってはいないのだ。

「想造を手放す? どうやって……」

 よもや制限を迎えナパードすら扱えない状態のことではないだろう。

「それとも力のことじゃない……?」

 現在、過去の節ではそれぞれ力と言っていたが、未来を手にしろの前は、失いの一言だ。武神ヨコズナは口が達者ではない。単純に言っていないだけということも考えられるが、そこにもし意味があるのなら、失うものは他にあるのかもしれない。

「ユフォンじゃないのか」

 セラはどきりとした。不意の言葉に意識の底から引き上げられた。現実世界で目を開けると、ユフォンの部屋には空気を読めない天才がいた。

「フェズさん」

「セラ。ユフォンはまだ見つかってないのか? せっかくあいつの魔素の揺らぎだと思って来てっていうのに」

「ユフォンの魔素?」セラはベッドから降りながら尋ねる。

「だいぶ染みついてるぞ。ま、あいつが一番近くにいるわけだし、使い方が似るのは当然か。なあ、それよりさセラ、どうせ勝つのは俺なんだけど、戦わないか。てか戦おう。コロシアム開けさせるから」

「え?」

「ほら、ナパードしろ」有無を言わさずフェズルシィ・クロガテラーはセラの肩に手を置いた。「早く」

「は、ははっ……」

 セラは苦笑しながらも彼に従うことにした。唐突な申し出だが、セラにとっても都合がいいものだと思ったからだ。二人の直接的な戦いを見たわけではないが、ホワッグマーラに愛されし者である彼は、この世界の中に限って言えばエァンダよりも強いはず。魔素が味方をする彼と想造の力を手にしたセラ。どちらが上か、それも気になるが、なにより想造に慣れるために全力で戦える知り合いだ、彼は。想造で真っ向からぶつかっても、大丈夫な相手だ。

 それに瞬間移動を別としても、あらゆる技術を見て瞬時に自分のものにする天才フェズだが、誰もなしえなかった『太古の法』への到達には時間を有した。努力を必要とした。それは現状のセラに似ている。だからこそ、彼からは、今自分が知るべきことが知れるかもしれないとセラの勘が働いた。

「今回はわたしが勝ちますよ」

「へぇ~」

 ユフォンの部屋に碧き花が舞った。



 無人のコロシアムにセラとフェズは現れた。コロシアムは全空チャンピオンシップの時より、さらに豪華な造りになっていた。崩壊の度にその規模が大きくなっている。

「勝つって?」

 フェズがセラから距離を取る。

「ええ」セラはフォルセスを抜く。「この前は調子悪かったですし」

「ふーん。ま、やってみればわかるか」

 言いながらフェズは天に手を伸ばした。そこから魔素が放たれ、噴水のように広がり落ちて、コロシアムを包む。分厚い魔素の障壁が完成した。同じことをドルンシャ帝がズーデルたちとの戦いのときに見せたが、それ以上に魔素の量が多いのをセラは感じ取る。分厚さは同じくらいだが、密度が圧倒的に高い。

「俺も立場上、街を壊すわけにはいかないからな」

「立場上?」

「帝になった」

 セラは思わず頓狂な声を上げる。「えっ!?」

「さ、はじめよう」

「ちょ、え……」

 戸惑いながらも、セラはすぐに気を引き締めた。フェズが静かにその声を響かせたからだ。


『太古の法』


 セラもすぐに想造を開花させる。瞳に、身体に、エメラルドを揺蕩わせる。

 フェズはなんの動作もなく魔素をセラに差し向けた。対してセラは空気を放った。魔素を取り除いた空気だ。

 コロシアムの中央で魔素と空気がぶつかり合う。魔素を孕んだ風が吹き荒れる。均衡、だが次第にセラが押されはじめ出す。さすがに魔素に満ちた世界での正面での激突ではフェズが上手だ。

「フェズさん。もしわたしが勝ったら、少し話聞いてもらえますか?」

「話? 別にいいけど? 勝てたらでいいの? 普通に聞くけど」

「じゃあ」セラは跳んだ。フェズの背後だ。「終わったらで!」

 振り上げられたフォルセス。次の瞬間にはセラの手元から弾かれ壁際に転がった。セラはすぐに愛剣をその手に戻そうとするが、フェズがそれを許さない。魔闘士とは思えない見捌きで徒手空拳が飛んでくる。その対応に追われる。ナパードの隙さえ与えてもらえない速さは、イソラやケン・セイと組手をしているようだった。

 腕を絡み取られ、捻られる。抜け出すためにフェズの顔に目掛けて膝を蹴り上げる。易々と躱される。だが彼の頭上を越えたセラは、着地よりも早く、空中にステンドグラスの床を出現させて蹴った。フェズと共に地面に倒れていく。そこに生まれた隙に、セラは自らだけナパードした。

 フォルセルを掴み、受け身を取るセラ。その上にフェズが現れた。脚を大きく振り下ろしている。セラは彼の脚に合わせて、フォルセスで頭を護る。

「……んっ」

 力がセラを伝い、足元に亀裂を走らせる。そんな中、ふっとフォルセスに加わる力が抜けた。かと思うと、目に見えるほど迸る魔素を纏ったフェズの拳が、セラの視界に入ってきた。

「!?」

 気づけたのは彼女だからだ。だが、対処はできない。強烈な一撃が頬に刺さった。その力に弾かれるように、セラの身体はコロシアムの壁に激突した。

 壁から跳ね返るセラ。そこへ追撃しようとするフェズに、彼女は反撃させる(・・・)。フェズの背後から分化体のセラがフォルセスを振り抜く。

「おっ!?」

 気づいたフェズが腕でそれを防いで、弾かれて地面を滑っていく。

 セラは分化を解きながら、止まったフェズと視線を交える。

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