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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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215:背負うもの

「では話すぞ」

 ゼィロスは椅子に腰かけ、落ち着いて話しはじめようとする。だがそれを止める人物がいた。

「あの、わたしもいていいんですか?」

 ハツカだ。

「ああ、イソラか」

「あ、わたしはハツカです。ハツカになりました。イソラとはちょっと変わった双子、ってことで」

「……ああ、そうか。では改めてハツカ。君にもいてもらって構わない。むしろセラの身体を持つ君にも話がある」

「はあ……」ハツカは自身の身体を眺める。それから溌溂と頷いた。「わかりました」

「早く話して、ユフォンくんを捜しまじょうっ!」

 ハツカが頷いたのを見るや否や、ゼィロスに捲し立てるヒュエリ。

「わかったから落ち着いてくれ、ヒュエリ」

 ヒュエリを宥め、ゼィロスは今度こそ話しはじめる。

「ユフォンのことは最後にするとして、まず『夜霧』だ。恐らく部隊長と思われる男の存在が明らかとなった。神を喰らい、その力を得ているらしい」

「『神喰らい』……」セラは思い当たる名を確認するように口にする。「バーゼィ・ドュラ・ノーザ?」

「知っているのか?」

「うん。ハツカ、それにフュレイを食べようとしてた」

「そうか」ゼィロスは覗き込むようにセラに尋ねる。「それで……戦ったのか?」

「うん……でも、勝てなかった。神の力を使いこなしてる。でも、可能性はあると思う。想造の力をものにできれば」

「そうか、やはりエァンダの見立て通りか」

「エァンダ?」

「ああ、これはエァンダからの情報でな。あいつはバーゼィに勝てるとしたらお前くらいだと言っていた」

「そっか」

「随分あっさりしてるな。兄弟子を立てるために否定するかと思ったが?」

「ううん。もちろん、思い上がってるわけじゃないし、尊敬してる。エァンダにはまだ教えてほしいことがたくさんあるから。ただ、わたしはもう、一度あの男と戦ってる。その強さを知ってる。だからわたしじゃなくても大丈夫だよ、なんて無責任なことを言いたくないの」

 それほどの強者なのだ。バーゼィは。不用意に仲間を向かわせ、その命を奪われるなど考えたくもない。

「なるほど、仲間を想うが故か。背負い過ぎるなよ、とは言わない。言えない。……お前ばかりに重責を負わせてしまってすまないな、セラ」

「今にはじまったことじゃないでしょ」セラは肩を竦めて見せる。「伯父さん、背負い過ぎじゃない?」

「……ふっ、ははは。気まで使わせてしまうとは、情けないな」

「話をっ、進めまっ、しょう!」

 悲惨な顔で小気味よく、ヒュエリが言葉を区切りながら訴えかける。

「これでは、ユフォンくんの話に行くまで三週間かかってしまいますっ!」

 あまりに荒れすぎているようにも感じる。それでは反対に話の進行の妨げになりかねないと思えるほどに。

「はっ、三、週、間っ! あぁ~ユフォンぐぅ~んっ……どこ行っちゃったんでずがぁ~……!」

 自分で言ったことに反応して、椅子から転げ落ち、膝をついて泣き喚く司書。情緒不安定にもほどがある。さすがに本来の彼女の度を越している。セラはそのことに危機感を覚えていた。このままでは感情に身体がついていけなくなって、疲れ切ってしまうだろうと。疲労だけで済むならまだマシだろうが、ズィーを失ったときのセラ自身のように、時の流れも感じないほど抜け殻になってしまうのではないかと心配になる。

 だからセラは彼女を眠らせることにした。起きた時に恨まれないように、優しく。

「ヒュエリさん、ごめんなさい」

「ふぇ?……ふにゃぁ~…………」

 泣き荒ぶヒュエリの元へ歩み寄ると、その灰銀髪に手を載せたセラ。それだけで、ヒュエリから力が抜け、だらりと眠りに落ちた。セラは彼女を支え上げ、椅子に座らせた。

 ゼィロスが訝しむ。「……なにをした?」

「夢を見てもらってる」とセラは柔らかく応えた。

「それってユールの力?」イソラは言っておきながら自ら否定する。「って、セラお姉ちゃんは知らないか」

「ユールってイソラたちが戦った夢見の民の女の子だったよね。ユフォンから聞いてる。けど、夢見の力じゃない。これはマカ、とまではいかないけど、ドルンシャ帝に教わったの。頭に魔素を流して眠らせる方法。魔素を使う人にしか使えないから、ほとんどの戦いじゃ使えないけどね。さ、伯父さん話の続きを」

「ああ、そうだな。『夜霧』の戦力の話の続きだが、この前お前が戦ったィエドゥ・マァグドル。あいつは第二部隊隊長だ。だいぶ前からわかっていた情報なんだが、都合が合わずに話せずじまいだった。相まみえる前に話しておければよかったが、すまない」

「うーん、確かに最初からああいう戦い方をするってわかってれば、ハツカは眠らないで済んだかも」

 セラは笑った。そしてまるで彼女の想いを継ぐように、ハツカとイソラが顔を見合わせて笑いあった。

「でも、わたしたちがお父さんとお母さんに会えたのは、そのおかげです、ゼィロスさん!」

「あたしからも、ありがとね、ゼィロスさん! 姉がお世話になりました!」

「この流れで感謝されるとはな…………」

「姉?」セラは綻んだ顔でイソラに訝んだ。「ハツカがお姉さんってこと?」

「うーん、なんとなくそうかなーって。セラお姉ちゃんの身体だし、ザァトとハツカさんとあたしが繋がったのって、ハツカがいたからだし、違う?」

 イソラが前髪を揺らして首を傾げると、ハツカは一瞬考えこんで、それから大きく頷いた。

「うん」

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