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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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203:信仰と信頼

 ケン・セイは考えあぐねていた。自身には不向きなことだ。

 繰り返す記憶から抜け出したその先で待ち受けていたのは、立てられた箱の中で眠る弟子二人と、小人、そしてセラに似た娘とキノセの姿だった。

 箱は外身はガラスで、中身は鏡だった。ケン・セイの傍らにはその箱が砕けた残骸が落ちている。彼が入っていたものだ。

 棺桶のようなその箱をケン・セイは何度か攻撃してみたが、ヒビ一つ入らなかった。武力で解決できないことは、彼にはお手上げも同然だった。『賢者狩り』のときは弟子たちに眠りから覚ましてもらった。今度は師である自分がという心持ちであったが、それも無理と悟る。

「もしや、これが、俺の、絶望……ん?」

 なにかを察し、箱の一つに目を向けるケン・セイ。キノセの入っている箱だ。と、鏡とガラスが盛大に砕け散った。

 爛然の中、指揮者が指揮棒を振り上げた姿で立っている。彼は余韻に浸るように閉じたままだった瞳を、ゆっくりと開ける。

「出れた……わけじゃなさそうさな」

「キノセ」

 ケン・セイが声をかけると、キノセは指揮棒をしまい近寄ってきた。どこか他人行儀な問い掛けをしながら。

「ケン・セイさん。あなたもリピートから抜け出した?」

「リピート……繰り返す過去なら」

「そっか。じゃあみんなもそうなのか。まだ嫌な記憶を繰り返し見せられてる」

「この箱、壊せん」

「中からじゃないと壊せないのかもしれない」

「キノセ、できた。ならば、イソラ、テムも」

「確かに俺より鍛錬を積んでる二人なら、乗り越えてもおかしくない……いや」

「ん? 二人、自分より、劣っていると?」

「いや、そうじゃなくて……ケン・セイさんくらいなら自力で出られるのかもしれないですけど、俺たちじゃ無理なのかもしれないと思って」

 ケン・セイは半ば睨むようにキノセを見つめて一言。「根拠」

「……え、ええ」キノセは先ほどしまった指揮棒を取り出す。「俺はジルェアスの声に背中を押してもらって出れたんだと思うんです」

「セラフィ、声? ゼィグラーシスか?」

「はい。だから、俺、試してみます」

 キノセは指揮棒を意志ある瞳で見つめた。

「俺がみんなにジルェアスの声を届ける」



「っく」

 セラは高速で飛んできたコインをフォルセスで弾きながら、纏わるエメラルドが薄くなりはじめているのを確認する。

 力の差が大きくなっている。

 神そのものの力ではない、信仰の力がここまでとは思いもしなかった。

「ははは」ィエドゥが攻撃の手を止め、余裕の中わざとらしい高笑いをした。「どうした舞い花。今度は君が劣勢の演出か?」

「そうかもね……お前みたいに強くなれるかも」

「ここにいるのは俺の観客。俺を見に来ているんだ。君がいくら猫なで声で誘い込もうとしても、なびくことはない。今は俺の逆転に盛り上がり、より力をくれている」

「……確かに、ここにいはお前の客しかいないかもしれない。でも、ここにはいなくても、わたしにもわたしを信じてくれる人たちがいる。すぐ近くにいる必要はない。みんなの存在が、想いが、わたしをいつも強くする」

「ふん、弱りながら言う台詞ではないな」

「それに…………わたしは『碧き舞い花』よ? 異空中にファンがいる」

 ィエドゥの言葉など気にせずに言ったセラ。彼女の想造が息を吹き返した。

「……なるほど。信仰と信頼。観客とファン」

 手品師は優雅に、言葉に合わせて両手を身体の前で示す。

「俺と君。さあ、ショーは大詰め。最高のクライマックスといこう!」

 指を鳴らすィエドゥ。すると空間が闇に落ちた。そして、二つの照明が、二人の演者だけを浮かび上がらせた。

「……」

 セラはフォルセスを構え、鋭くィエドゥを睨む。すると彼の口が動く。

「演目の名は、黒幕」

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