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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第零章 舞い戻る碧き花
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2:The Emerald BloomⅡ

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 ユフォン・ホイコントロは深き密林を駆けていた。

 あらゆる方向から伸びる幹、枝、蔦さらには岩たち。避けながら走るのは骨が折れる。あまりの密集度に空気が薄いのも厄介だった。そんなことを考えているそばから、彼は飛び乗った苔むした岩から滑り落ちる。

「うぁっ……!……ははっ……」

 尻餅をついた。

 遊歩。追われていることを差し引いても、まだまだ彼女には及ばないなと自嘲するユフォン。そもそも一度も比べたこともないな、とも。

止まって(ゼィグ)なんて(ラー)いられないな(シス)っ」

 ユフォンは立ち上がり、再び駆け出す。

 拙い気読術が追手の接近を感じ取る。だがどれほどの近さかは判然としない。相手が魔闘士ならもっと正確に距離が測れるだろうが、そうは言ってられない。なにより敵が強大だからこそ、気読術が機能しているといえる。皮肉なものだ。

 敵との距離を測れぬまま、ユフォンは突然に鬱蒼とした木々の中から飛び出した。

 湖だった。

 浅瀬に足を踏み入れ、その冷たさを感じると動きを止める。まずい。技術としてではなく、本能としての勘がそう告げていた。

 そして、勘は当たる。

 追手がその開けた場所に姿を見せた。彼と同様、密林から飛び出る形で。

 くすんだ緑色の隻眼がユフォンを捉える。落ち着いた朱色に縁取られた瞳孔を持つユフォンの瞳にも細く背の高い男が映る。

 ヌロゥ・オキャ。

「っく」ユフォンは身を翻し、引き返そうとするが空気の壁に阻まれた。「……!」

「鬼ごっこは終わりだ。筆師」

「まださ」

 ユフォンのブレスレットの黒水晶が輝き、彼の姿を渦巻くように歪ませる。気配や空気を追われないようヌロゥを巻いてからと思っていたが、ここから逃げるにあたって残された手段は瞬間移動だけだった。

 跳ぶ先は仲間たちがいる場所にしよう。敵が追ってきても返り討ちにできるように。急な敵の登場に驚くだろうが、彼らなら対処してくれるだろう。

 パリィン――。

 その音がユフォンの思考と瞬間移動のマカの回転の止めさせた。

「!?」

 ユフォンは腰ベルトにかかる魔素タンクに視線の向け、目を瞠る。

 割られた。

 左右に五本ずつの魔素タンク、そのうちの一本を的確に。魔素を残していた最後の一本だった。

「空気と魔素。どちらが優れているかという問いが必要か、筆師?」

 空気はあらゆる世界に。魔素は限られた世界に。だからこその魔素タンクだ。だが、とユフォンは対抗の眼差しをヌロゥに向ける。

「使い勝手の話ならそうだろうね。でもそれで力の優劣を決めてしまうのは、浅はかだと思うね、僕は。どうだい、冷酷詩人?」

「刃こそ持たないが、なかなか鋭い切れ味だ。さすがだ」ヌロゥは湖面を揺らしながらユフォンに歩み寄る。「だが、お前と問答する気はない」

「ははっ。そう。じゃあ、帰っていいかな? 僕も君に話すことなんてなにもない」

「聞いてもその口が答えないことはわかっている。だからその身体を答えにするのさ」

「……」

 迫るヌロゥに、ユフォンは空気の壁に張り付くように後退る。

「だが、敢えて一度言葉にして問おう」

 ヌロォとユフォンの顔はくっつかんばかりに近づいた。くすんだ緑の瞳と茶色掛かった瞳が睨み合う。

「舞い花はどこだ!」



 The Emerald BloomⅡ begins......



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