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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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196:最後のおしゃべり

 キノセとネルが揉める中、セラとイソラが共に客室に入ってきた。

 セラがユフォンに聞く。「二人ともどうしたの?」

「貝鸚鵡の真珠で作った指揮棒のことをどっちが説明するかを決めかねてる。って、イソラはイソラっぽくなったね」

 言い合う二人を余所に、ユフォンはセラの姿をしたイソラが、ヒィズルのイソラの様相に近づいたことに触れた。

 髪を短く切って、ヒィズルの風通しのよさそうな服装。色合いはセラに寄せ、前髪を括り上げていない。そんなところが、彼女がイソラでありイソラではない、セラでありセラではないことの証しとなっているようにユフォンは思った。

「ネルがわたしのために作っておいてくれた服の試作だって」

「ああ、だから君の服の色合いと同じなんだ。サイズもちょうどいいみたいだし。よかったね、イソラ……そういえば、イソラはイソラだけど、呼び方はイソラでいいのかい? イソラを、えっとヒィズルの方だけど、助けたら二人を呼び分けないと不便じゃないかい?」

「うーん……そうれもそうだね。どうするイソラ?」

 セラがイソラに首を傾げて見せると、彼女は悩み顔を返す。

「イソラはお父さんとお母さんが残してくれた名前だから……変えたくない……けど、みんなが困るよね……」

「あぁ、ごめんよ。僕はなにも考えずに……」

「ううん、いいの。でも、少し時間がほしい」

「うん、ほんとごめんよ。ゆっくりでいいから」

「そうだね」セラはそっとイソラの背に手を回す。「まずはイソラを助けに行かないと」



「二人とも、そろそろ出発したいんだけど?」

 セラは未だに口論を続けるネルとキノセに呆れながら言った。

「待ってセラ、わたしに貝鸚鵡の指揮棒の説明をさせてよ。少しでもセラと長くいたいもの」

「説明なら俺が道すがらする。ネルフォーネはユフォンにだけ説明すればいい。じっくり聞いてやってくれユフォン、この説明したがりの話をさ」

「絶対あなたの説明より、わたしの説明の方がわかりやすいですわ」

「二人とも!」セラは一喝する。「出発、したいんだけど」

「……」

「……仕方ないわね、セラへの説明はあなたに任せますわ、キノセ。わたしはユフォンで我慢します」

「ははっ……我慢って、まあ、じっくり聞くけどさ」

「よし、じゃあ行くか」

 キノセがしれっとセラの肩に手を置いた。

「キノセ、今回はわたしじゃなくてイソラ」言いながらセラはイソラの肩に手を置いた。「お願いねイソラ」

「うん」

 フュレイに洗脳された折にフォルセスやウェィラ、所持品は取り上げられたというイソラ。それらはその時に消えてなくなったらしい。だから今、彼女をセラたらしめているのはその容姿とナパードだけだった。そしてそのナパードがあることが、イソラ救出に大きな手助けとなる。

 イソラとの糸を辿れるのはイソラだけなのだから。



 少女は父との再会を果たした。

 涙だった。激怒だった。笑顔だった。そして、涙だった。

 娘ペレカ・エウロブの激しい感情の変化を、父オトゲン・エウロブは優しい無表情で受け止めた。

 連盟の警備にあたる職員がオトゲンを牢へと連行するまで、親子はしっかりと娘と父として向き合った。



「わたしをこんな簡単な牢に閉じ込められると思っているのなら、連盟を無能と評さざるを得ないな」

 武器密売人ネゴード・ボエルは独房を前に嘯いた。

 職員と共にネゴードを連行していたコクスーリャは爽やかに返す。

「そんな安物に見えてるなら、武器職人として三流だな」

「わたしならもっと洗練された機能美で仕上げるな。この牢には無駄が多い。簡単に抜け出せる」

「本当にそう思いますか?」

「まさか探偵さんが付きっ切りとか?」

「それなら確実でしょう」

「……」

 独房の扉が職員によって開けられる。

「冗談ですよ。魔導賢者が招集を掛けられているようですよ。禁書持参でね」

「禁書? 以前全空チャンピオンシップの前身の大会で用いられたものですか?」

「準備が整うまでの数十分、俺と現実世界最後のおしゃべりというわけです」

「……本当に最後になるかどうか。ともあれ、有効に使わせてもらう、その数十分」

 コクスーリャと余裕を浮かべるネゴードが入室すると、独房の扉は固く閉じられた。

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