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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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195:糸を辿れば

「イソラは生きてるよ」

 イソラはそう言った。

 セラは戦いを終えた状態のまま、スウィ・フォリクァの会議室でそれを聞いた。彼女にも『神喰らい』バーゼィと『夜霧』について話すことはあったが、なによりも先にイソラが伝えたいイソラのことだ。友の命には代えられない。

 セラの姿をしたイソラについては、すでに賢者たちの耳にも入っているらしく、誰もそのことを聞くことはしなかったために、セラが戻るとすぐに本題に入ることができた。

「すごい遠いところにいるみたい」

「遠い?」ゼィロスが代表して口を開く。「正確な場所はわかるのか?」

「場所は、わからない」

 イソラの言葉に小さな溜息がいくつか聞こえた。それはイソラにも当然聞こえていて、彼女は慌てて二の句を告げた。

「けど! 糸を辿れば会いに行けるはず!」

「糸……それは玉の緒の神の力か」

「信頼していいものなのです~か? 人の身体を勝手に使うような人間です~よ。ああ、半神でした~ね。そもそ~も、半分の力で本当に辿り着けるのです~か?」

 メルディンの言葉にイソラは身を乗り出して反論する。

「それは大丈夫だよ! 絶対!」

「根拠もないこと~を堂々と言います~ね」

「根拠は…‥ないけど。自信はある! わたしならイソラを助けられる! ううん、わたしがイソラを助けるの!」

「ふん、勝手~にしなさい。わたくし~はそもそもケン・セイ様たちのこと~は心配などしていませんから~ね」

「ちょっと!」

「イソラ。ここで揉めている場合ではないだろう。それにメルディンが心配していないのは、ケン・セイたちへの信頼からだ。決してどうでもいいと思っているわけではない。そうだろ、メルディン」

「さ~て、どうでしょ~ぉ」とそっぽを向くメルディン。

 ゼィロスの言葉にはセラも同感だった。メルディンはねちねちと人が嫌がるような指摘ばかりをしたり、人の意見の反論ばかりしているように思えるが、それは彼が真剣に物事を考えているからだと、共にする時が増えるごとにセラは思うようなっていた。彼は馴れ合いを嫌う。なにより本当に興味がなければ彼は会議もとい連盟に参加すらしない、そういう男だ。

 彼には昔のキノセが重なる部分がある。というよりも師である彼の考えをキノセが真似していたのだろう。若かったキノセは同世代のセラたちとの関りでその考え方に変化があったが、彼は今でも貫き通しているのだ。

「セラ」ゼィロスがセラをまっすぐ見る。「ネルのもとで回復したのち、イソラと一緒にイソラを探しに出てくれ。メルディン。キノセも同行させるがいいか?」

「ええ、構いません~よ」ゼィロスに応えてから、弟子を一瞥して続ける。。「キノセも、新しい指揮棒を試すいい機会でしょうか~ら」



 柔らかい黄色のお湯に二人のセラが浸かる。

 まろやかな匂いと湯気に満ちるトラセークァスの露天風呂。セラとイソラ・イチは隣り合って、癒しの時間を共に過ごす。

「フュレイから田園の人たちを救おうと思って、乗り込んだんだけど……逆にセラお姉ちゃんの姿を利用されちゃったの、洗脳されて、信仰集めに」

 顎までお湯に浸けながら顛末を語った。

「それでいうとあの男に助けられた部分もあるんだ、わたし。襲撃から逃げるためにフュレイがわたしを切り捨てたことで、洗脳が解けた」

「信仰が欲しいフュレイは『土竜の田園』の人たちの命を奪おうとはしないはず。あそこのことは連盟も気にかけてるから、必ず助けられるよ。もう一人で背負わなくても大丈夫だからね」

「うん」

「それにしても、分化体なのにもうわたしじゃないって不思議な感じ。わたしの気配はあるのに」

「わたしも詳しくはわかってないんだ、自分でやってることなんだけど。実際イソラの中にもわたしの意識が残ってる。糸でこの身体を操ってるって感覚、かな?」

 いいながらも要領を得ていない様子のイソラ。本当に彼女自身もわからないのだろう。まるでバルカスラの双子のようだとセラは思った。そして、一つ言えることがある。

「強い想いがそうさせたんだね、きっと」

「うん」



「新しい指揮棒って、結局どういうものなんだい?」

 セラとイソラの入浴中、ゼィロスから任を出された三人についてきたユフォンは城の客室で執筆する手を止めて、まだ完成品を見ていない指揮棒についてキノセに聞いた。

「貝鸚鵡の真珠を使ったっていうやつ。音をストックするんだよね。結局それってどういうことなんだい?」

「ああ」キノセはふかふかのソファに沈んだまま、その手に光沢のある乳白色の指揮棒を取り出した。「これは優れものだぞ、ユフォン」

「ミュズアの指揮者が用いる界音指揮法は世界の音を操る技術ですが、界音と一言で言ってもその種類は様々ですわ」

 得意気に話し出そうとしたキノセを遮って、ネルフォーネが悠々と語りながら客室に入ってきた。

「あ、セラとイソラは着替えたらすぐ来ますわ」

「いや、そうじゃないねえだろ」キノセがシラケた視線をネルに向けた。「なんでお前が説明しようとしてるんだよ、ネルフォーネ!」

「いいじゃないですの、誰が説明したって」

「ならお前じゃなくてもいいだろっ」

「……ははっ、どっちでもいいけどセラとイソラが来るまでにどっちが話すか決めてくれるかい?」

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