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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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194:『神喰らい』バーゼィ・ドュラ・ノーザ

 その縦横無尽な揺れに、セラは身に覚えがあった。これは世界の崩壊だ。

 セラは異空の雲から男に視線を降ろし言い放つ。「自分も出られなくしてまでやることじゃない!」

「いいんだ。だって俺は平気だからさ。じっくり待つさ、この世界とお前の終わりを」

「……っ」

 セラは男から視線を離し、異空と隔たれた世界の空を見上げる。そしてフォルセスを振り上げる。斬撃は天まで届き、そしててらてらした淡い輝きに、優しくあしらわれる。

 斬撃を天まで放つことができても、ナトラ・ネヌを断ち切ることはできなかった。試してみたものの、彼女にはそこまでの力はもう残っていなかった。

「無駄だ。ただの雲じゃない。だってそうだろ、俺が……出したんだ……!?」

 男が言葉の途中で目を瞠った。

 セラも訝しむ。「……?」

 突然、雲が晴れ、揺れも収まったのだ。

「なにを偉そうにしているのかしら」

 その声も唐突に。男の背後から悠々と、だが刺すように。

「わたしの世界で勝手は許さないわよ」

 フュレイ。

 麗しき邪神が差した太陽の光にその白さをひけらかす。

「逃げておいて」男がフュレイを振り返る。「今さらなにを言ってるんだ」

「あなたが弱るのを待っていたのよ。弱らせたのが紛い物でなく本物だったのは予想外だったけれどね、セラ」

 セラはヴェールを消すことなく、身構える。

「そう構えないでいいわ。今はあなたより、この不届き者の始末が優先されるべきことですもの」

 優美に笑んで、フュレイは男に近づく。そして艶めかしくその身体を寄せると、そっと男の顔に手を添えた。それに対して男は抗おうとしたようだが、身動きを封じられたのか、甘んじて受けていた。

「くそ、獲物のくせにっ……」

「捕食者が絶対的強者というわけじゃないのよ」

 セラは男からフュレイの手に向かって、活力が動くのを感じた。次第に男の皮膚が皺だらけになっていく。

「ぐ、が……あ゛ぁぁ…………」

「さすがに神を喰らってきただけあるわ。潤沢な生命力ね」

「ぁぁ…………ああ゛……あああ゛!」

 男が唸りながらフュレイの手にしわくちゃな手を重ねた。

「なにっ」

 驚くフュレイを余所に、男は力強く神の手を握りしめた。

「まさか、飢餓の……!」

 フュレイはすかさず男を跳ね飛ばすようにして離れた。男は尻餅をついて、そのまま仰向けに倒れた。そしてその身体はゆっくりとだがハリを取り戻していく。

「くはははは」その声に次第に若さを取り戻しながら男は笑った。「だから言ってるだろ。俺は『神喰らい』だって。慄け神々よ! バーゼィ・ドュラ・ノーザが後ろに立ってるぞ! くははははははは!」

 セラは誰に問うでもなく呟いた。「どういうこと……」

 フュレイはさっきまでの余裕がどこかへ行ったように険しい顔で寝転ぶ男を見ていた。彼女からの説明も期待できないだろう。

 男は脚を振った反動で立ち上がる。その身体はハリこそ戻っているが、傷は癒えていないようだった。フュレイを見て、振り向いてセラを見た。その目は薄い茶色で、人間の瞳だった。

「喰いたいやつも、殺したいやつも、お預けだ。気分良くないけど、仕方ないだろ? 食事は最高の状態でしたい性質(たち)なんだ、俺は」

 男はそういうと、誰もいない空間に向かって手を差し向ける。そこに黒と白がうごめく穴が空く。

「そういうことだ。またな」

 自らが空けた穴に消えていく男。

 長閑な田園風景にセラとフュレイが残された。見つめ合う二人。先に口を開いたのはフュレイだった。

「今回はなにも教えてあげないわよ。わかったら、ささっと出て行ってくれるかしら、わたしの世界から」

 未だにヴェールを保ったままセラは問で返す。「殺すんじゃなかったの?」

「忌々しい子ね、まったく。お互い殺し合える力なんて残っていないじゃない」

「あなたはただ触られただけじゃない、フュレイ。ちゃんと復活した割に大したことないんだね」

「ふん、挑発したってあの男のことは教えてあげないわよ」

「そっか」セラはヴェールを消した。「残念」

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