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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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190:超越者たち

「俺はさ、『神喰らい』って呼ばれてる。神は俺の好物さ。にしても不思議だな。お前とお前――」

 男はセラと後ろのセラを順に指さした。

「――よく見れば別人だ」

 別人。

 男はそう言った。よく見ればとは、便宜的な表現だ。きっと男はセラと、イソラの気配を持つ分化体を感じ分けたのだろう。

「今出てきたお前からは神のニオイがしない。見た目は関係ない。お前らは別人だ」

 セラは後ろの分化体を気にしながら訝しむ。「神のニオイ?」

「そうさ。ただ、そのものじゃない。神の血を引いてる人間だ。俺はもう一人いた純粋な神を喰いたかったんだけださ、逃げられたんだ。だからさ、それで我慢することにしたんだ。だってそうだろ? お預けなんて、気分が悪い」

「そっか……」セラは男の言葉で理解した。そして後ろの彼女に告げる。「イソラ、なんだね」

 イソラの中には、もう一人イソラ・イチがいる。

 それはセラが知るヒィズルのイソラ・イチ本人から()、修行が終わったあとに聞いていたことだった。

 ヴェィルが神狩りをしていた時代。玉の緒の神であるザァトが人間ハツカ・イチとの間にできた娘イソラ・イチの魂を、時と場所を超えてヒィズルの山に捨てられた赤ん坊の魂と結び付けたのだと。

 フュレイに洗脳されているときに、意識の底で言葉を交わし、洗脳から覚めたのちにその目が光を取り戻したのも彼女のおかげだとイソラは言っていた。

 昔から知るイソラの気配を感じた先にイソラ・イチがいたことにはこれで納得がいった。イソラたちは、ずっと一緒だったのだからそのはずだ。ただなぜ彼女がセラの分化体の中にいるのか、ヒィズルのイソラはどうなってしまったのかとセラの中に疑問と不安が浮かぶ。

「うん。ごめんね、セラお姉ちゃん、わたし勝手にこの身体使っちゃって」

「詳しい話はあと。イソラは安全なところに」

 言いながらセラは瞳にエメラルドを閃かせ、身体にヴェールを纏った。

「今はあの男をどうにかしないと」

 セラは改めて男に向けてフォルセスを構える。

「どうにかするって? 俺を? どうにかできるって? ほんとにそう思ってるのか?」

「もう神に恐れるわたしじゃない!」

 エメラルドをちぎり揺らして、セラは男の懐に瞬時に現れた。駿馬も竜馬も超えたセラだけだ到達した速さだ。そしてその速さは足だけに留まらない。腕の振りもまた然り。振り上げられたフォルセスは音もなく男の身体を通り過ぎた。

「ほおっ、速いな」

「!?」

 男の後方にあった石像たちが見事に滑らかに斬れ落ちていく中、男は無傷で平然と感想を口にした。

「てかさ、俺は神じゃないって言っただろ? 神は好物。獲物なんだよ。…‥捕食者、つまりさ、神より上なんだよ、俺はさ。ああ、これも今日二回目だな。とりあえず、殺していいよな。だってそうだろ、俺に剣を向けたんだからさ!」

 男が声を荒らげると、セラの足元が疼きだし、間髪入れずに氷の槍が二本、セラに向かって伸びてきた。

「っ!」

 セラは後方宙返りでそれを躱すと、着地と同時に脚をに力を籠める。そうして再び男に斬りかかろうとしたところで、今度は彼女の足元がぐにゃりと沈んだ。石畳が沼のように液状になっていた。

「えっ?」

 体勢を崩した彼女に向けて男がその手に出現させた剣を振り下ろす。それを感じながら、セラはナパードした。男の真上に移動し、転んだ体勢をそのまま生かしてフォルセスを振り下ろす。

 男のうなじを狙う。だが、彼女のサファイアは次の瞬間には男の真っ黒な瞳と見つめ合う。男にはなに一つ身動きがなかった。振り向いたわけではないのに、目が合ったのだ。

 男が口角を上げる。

 セラは神の瞳の力が来ることを察知し、跳ぼうとした。

「遅いな」

「……ぁ」

 男に手首を掴まれ、胃の浮き上がるような感覚に襲われた。呪いだ。力が抜ける。

 身体が揺らぎはじめた。このあと、身体が乱回転とともに吹き飛ぶ。だがそれに甘んじるつもりはセラにはなかった。

ウォール複製リプリント反復リピート

 セラが早口に告げると、男の眼前からセラまでの間に碧き花のステンドグラスが幾重にもなって現れた。そしてすぐに男側から順に破裂していく。

 僅かだが、睨みの速度が落ちた。それは一瞬ではあったが、セラには充分な時間稼ぎになる。セラはその隙に外在力でたくさんの空気を操り、浮いた自身の身体を地面に向けて吹き下ろした。

「っくん……!」

 強く身体を打ち付けながらも、セラは男も同時に振り回し、その拘束から逃れることに成功する。身体を回しながら立ち上がると、同じく立ち上がった男と剣をぶつけ合う。その激突は二人を中心に激しい衝撃を生み、石畳を割り、剥がす。

 まだ衝撃が消えないうちに、二人はその場から動く。

 離れては剣を交え、離れては剣を交える。

 二人の間には間違いなく、ゆっくりな時間が流れていた。まるでトラセードで空間を拡大しているときのような時の流れを共有していた。それを傍から見た者がいたとすれば、その者はきっとかなりの実力者だろうとセラは考える。

 セラは昂揚していた。想造の力を身体に馴染ませるのに、この男はいい相手だった。クェトに操られていたズィーもそうだ。慣れるために日常でも想造の力を使うのも悪くないが、やはり実戦での経験が一番身に染まるものだ。時間が切れ、剣を振るうことしかできなくなる弱みを見せる危険もあるが、その限界が控えているということもまた、いい具合に焦りを生む。その焦りが成長を加速させる。

「っく!」

「ふんっ!」

 セラと男は石畳の高台から田園に戦いの場を移していた。

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