18:復興記念大会のお知らせ
異空中に名の知れた大会が行われる。それも六年ぶりに。
そのニュースはホワッグマーラの各都市はもちろん、異空をも飛び回り、多くの戦士、戦士でない者たちの耳に届くことになった。
「今回は参加できそうだな。お前も出るか、ノル?」
「ラス、聞いてないのか。今回僕たちは関係者だぞ」
ノルウェインの言葉に、ラスドールは顔を歪めた。
「待ちに待ったね。稼ぎ時ね!」
ラィラィは満面の笑みを浮かべた。
「早速仕入れね。忙しくなるよー」
「ホワッグマーラ復興記念大会」
さっぱりとした青い瞳に、黒い意志が差した。
「また壊れるのに」
「あいつも参加するだろうからな」
男は首から下がる『記憶の羅針盤』をローブで隠した。
「いいところを見せるにはうってつけだ」
「おじいちゃん、わたしこれに出てみようと思います」
「ジルェアス嬢とズィプの名を広めた大会か。いいんじゃないか」
老人はうねる髭をなでながら孫娘に笑いかけた。
「次の行先、決まったな」
ズィードはチラシを仲間たちに見せびらかす。
「おう、いいね」
「行こ行こっ」
ダジャールとケルバは嬉々として、ズィードを指さした。
ソクァムも首を縦に振った。「まあ、優勝じゃなくても賞金も出るし、今回の損失は取り戻せるか」
「ホワッグマーラかぁ、僕初めてだよ」とアルケンは期待に瞳を輝かせる。「ネモは?」
「わたしは昔あるけど、復興のあとははじめて」
「わたしたちもやっと行けるね、ピャギー」
「ピャっ!……ピャ~?」
「ん? 待ってズィード。これ参加の受付――イソラさん?」
言いかけた言葉をしまい、シァンが扉に目を向けると、彼女の姉弟子が現れた。
「これがそのチラシだ。だいぶ前から各世界に出回っているはずなんだが、見てないかい?」
「はい。ここ最近は一か所に長く留まることが少なかったので」セラは答えながらチラシを眺める。そして参加受付の期限に目を止めた。「……これ、昨日が締め切りじゃないですか」
「そうだ。だから俺は跳んできたんだ。もしセラちゃんが大丈夫なら、ぜひ参加してほしいと思ってな」
「ブレグさんがゲルソウ氏に掛け合ってくれるんだよ」
「警邏隊長の職権乱用ですね」
「ヒュエリ女史?」
「……すびばせんっ!」
「で、どうするセラちゃん?」
ブレグの問いかけに、セラは笑んで頷く。
「もちろん、出ます。新しい試練が鈍った力を戻すことなので、ちょうどいいです」
「よし、じゃあ俺は早速コロシアムに行ってくる。開催は三日後だから、少しくらいマカの調子を整えておくといい」
「はい。受付、よろしくお願いします、ブレグさん」
片手を軽く上げ司書室をあとにするブレグ。そして、彼と入れ替わるように、司書補佐官のテイヤス・ローズンがつかつかと部屋に入って来た。
「お久しぶりですね、セラフィさん」
「お久しぶりです、テイヤ――」
「ヒュエリさん」テイヤスはセラの言葉を最後まで聞くことなく、ヒュエリに告げる。「フェズルシィくんが呼んでいます。相談したいことがあるようです」
彼女のその態度にユフォンが「テイヤス・ローズンっ」と睨みつける中、ヒュエリは補佐官の言葉に頷く。
「わかりました。今行きます。ごめんなさい、セラちゃん、わたしはこれで失礼しますね。フェズくんを待たせると大変なんですよ」
テイヤスを伴って扉へと向かうヒュエリ。ふと、思い出したように足を止めて振り返った。
「あ、もし、大会前に軽く身体を動かしたいのでしたら、ジェルマド・カフ大先生のところでファントムくんと戦ってくれていいですよ。ユフォンくんがいれば、禁書の中にも入れますので」
「わかりました。ありがとうございます、ヒュエリさん」
「頑張ってくださいね、セラちゃん。わたしの弟子のひとりとして、優勝しちゃってくださいっ!」
「あー、ははっ……。はい!」
自身の現状ではブレグには敵わないだろうと思いつつも、セラは笑顔でヒュエリに頷き返した。
期待されている。しかしそれがちょうどいい重圧となっていた。想いを焚きつけてくれる。大会がはじまる前に、二年前の力を取り戻してしまおうと思えるほどに。