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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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186:背中合わせの対話

 男の背から血が噴き出す。そして分化体のエァンダに襲い掛かる。棘となってエァンダの身体を貫く。その負傷により、分化体が消え去る。

 そして残った血は空中でいくつもの小さな球に分かれ、鎬を削る男とエァンダに向かって弾丸のように飛んできた。

「自分ごとかっ……」

 エァンダは吐き捨てるように言うと、群青に輝く。地上に降りて、男を見上げる。すると男より先に血の弾丸が迫ってきた。

 その細々とした血の雨を、エァンダはタェシェで見事に捌き、地に落とす。そして続いて降りてきた男の剣を受け止めた。その衝撃でエァンダの足もとにはヒビが走る。

 力を横にいなして、エァンダは男を蹴り飛ばす。闘気の迸りを織り交ぜはしたが打撃は有効打にはなりそうにない。硬い膜による鎧もそうだが、今、男の身体は不自然にエァンダから離れて吹き飛んだ。反発する磁力のようだった。他人どうしてやるバルカスラの多体戦闘術・バルードのようだとエァンダは思った。

「三つ子の神の誰かを食べたのか?」エァンダはふわりと立ち上がる男に聞いた。

「三つ子? はて、喰ったかな、そんな珍しいの。もし喰ってってさ、覚えてないんだとしたら、相当不味かったのかもな。嫌なことはすぐ忘れる性質(たち)なんだ、俺。だからさ、お前のことも殺したらすぐに忘れるよ」

「ふんっ、安心しろよ、死んだら覚えてらんない」

「だから、なんで上からなのさ!」

 男が足を踏み鳴らした。大地が大きく震えはじめ、遠くの方でつららが折れる音がした。しかしそれが攻撃ではないのだとエァンダは察する。震えが空気にまで伝播し、次第に大きくなる。そして凍土に影が落ち、辺りを暗くした。

「!」

 エァンダが天を仰ぐと、空は巨岩に覆われていた。

 隕石。

 火炎を纏った岩がぐんぐん迫る。温度が上がり、つららがへたっていく。

「さてどうするか」

「どうもできないだろ」男がエァンダの懐に入ってきた。「だってそうだろ。俺がいるんだから」

 剣をタェシェで受け止める。すると男は空いた手でエァンダの腕を掴んできた。また縛られる。

「……これも自分ごとってことか」

「死ぬのはお前だけだけど」

 いつの間にか影は熱い光に変わって、二人を照らしていた。


「オレの力を使えよ」


 エァンダの頭の中に不意に声が響いた。

 エァンダはタェシェを睨んだ。そして、目を閉じた。



 群青の空間にエァンダが二人、背中合わせに立っていた。色のあるエァンダと、全身真っ黒で髪の長いエァンダだ。

 色のあるエァンダが前を向いたまま口を開く。

「まさかタェシェにも入り込んでたとはな」

 黒いエァンダ、。悪魔もまた正面を向いたまま喋る。

「小さすぎて気付かなかっただろ? お前が弱った時にまたその身体を乗っ取ろうとしていたが、その前に消えたんじゃ意味がないからな。オレの力を使えよ」

「お前の力なんて一度も使ったことないだろ」

「なにを言っている。神と戦ったときに使っているだろう」

「あれはお前の力じゃない。お前を閉じ込めるために使ってた力を戦いに回しただけだ。俺の本来の力を出すためにな」

「暴走しただろ」

「結局は抑えつけただろ」

「減らず口を。早くオレのものになれ。そしてあの上物の女のところに連れていけ」

「ふっ」エァンダは笑う。「俺はもう『死神』じゃない。『ナパスの化身』だ。セラには指一本触れさせないさ」

「強がりをっ。オレを受け入れなければ死ぬだけだっ!」

「お前を完全に消せるなら、それもいいかもな」

「ふざけるなっ! そうなればオレは出ていく」

「出ていく前に俺が消すさ」

「なにを余裕ぶっこいてやがるっ! このままじゃ死ぬんだぞ!」

 焦燥に揺らぐ黒エァンダ。対してエァンダは黙って口角を上げた。



 エメラルドが露わになった。

 エァンダの瞳に映るのは、男の背中から噴き出す血。そしてその後ろに自身の分化体。

 三人は青さを取り戻した空にいた。

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