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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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185:神を喰らう者

「なにが目的で世界を壊す」

 エァンダは戦闘がはじまる前に問いただした。

「なにが? おかしなことを聞くんだな。誰だって食事はするだろ?」

「破界と神を食べることに直接の関係はない。神がいなくても世界は成立する。それにお前も神が主食なわけじゃないだろ」

「好物なんだ。好きなものはなにがなんでも食べたいってもんだ」

「……思想を否定する気はないけど、世界まで滅ぼすのはやりすぎだと思わないのか? 必要のないことだ」

「ああ、それはな、そうだな。俺だって昔はそうだったんだぜ? でもさ、ヴェィルがさ、神喰ったあとは世界を消せって言うから」

「ヴェィル? お前『夜霧』か」

「ん? んー……その辺はよくわかんねえんだ、俺は。とりあえず、それがヴェィルのためになるって言うし、なによりさ、そうしてればフェースってやつがさ、神の情報をくれるから俺としては好物を食べたいときに食べられるってわけだ」

「フェース……」エァンダは一瞬、目を細めた。「やっぱ『夜霧』か。ならなおさら、お前をここで殺さないとだな」

「はぁ……てかさ、さっきから殺す殺すってお前、なんで上からなのさ。俺がお前を殺すんだよ」

 黒き眼がカッと見開いた。

 エァンダは横に飛び退く。つららが大地ごと削れ飛ぶのを横目で見ながら、視線とは反対にタェシェを振るう。そこには男の拳があって、二つは激しく空気を震わせながらぶつかり合う。

 硬い拳だった。まるで鋼鉄だ。

 そのまま剣と拳を打ち合いながら、二人はつららの合間を縫っていく。エァンダはタェシェを短くし、拳の速さに対応する。

「うらぁ!」

 男が攻撃の手とは別に、腕を振り上げると、凍土からエァンダに向けてつららが勢いよく伸びてきた。

「!?」

 大きく身体を反らしてエァンダは迫るつららを避ける。だがそこにできた隙を男がついてきた。腹に拳を食らい地面に強く背中を打った。

「っく」

 跳ね上がる身体に合わせて受け身を取ると、敵の追撃を蹴り返す。

「のぁ!」

 仰け反った男の懐に入り込むと、エァンダはタシェを伸ばしながら振り抜く。だがタェシェは男の脇腹で止まった。拳同様に硬い身体だった。

「影鋼かよ」

 タェシェを引いて、エァンダは男から距離を取る。

「ああ、これな。これは膜の神を喰って手に入れたんだ。見えねえだろうけど、薄くて硬ーい膜を張ってる。そしてさっきやった――」

 男はその場で腕を振り上げた。

 するとエァンダの後方からつららが襲う。それをエァンダは簡単に躱しながら男の方へ向かう。

「――これはここの神の力だ」

「食べた神の力を使えるって言いたいのか?」

 エァンダはトラセードで一気に距離を詰め、敵の懐でそう言いながらタェシェを振る。

「そういうこと。てか、何度やっても同じなんだけど……っ!」

 男は危機を察して飛び退いた。それでも男の脇腹から胸にかけて、傷が出来上がる。僅かに飛び散った血がつららを伝った。

 エァンダはふっと口角を上げた。「同じって言ったか?」

「なんでだ?」

 不思議がりながら男は傷口に手を這わす。すると傷が塞がっていった。

「神の力を使うお前は神じゃないってことじゃないか?」

「は? なにをわかったようなこと言ってるんだか、ばかばかしい。神を捕食する俺は神より上だから。そうだろ?」

 問いかけながら、男はその手に剣を生み出した。魔素などの類ではなく、形ある金属の剣だ。そしてすぐさエァンダに振るう。

 迎え撃とうとタェシェを振り上げるエァンダだが、不意に地面が沈んで体勢を崩す。意識を振り下ろされる剣に向けながら、エァンダが足もとを一瞥すると、凍土はドロドロの液体へと変化していた。これも神の力か。

 エァンダは迎撃をやめ、ナパードした。そして男の背後を取ると、タェシェで突きを放つ。

「!?」

 振り向いたわけではない。動きはなに一つなかった。それなのに男はエァンダに正対していた。まるで鏡映しのようにエァンダと同じ動きで剣を突き出していた。

 顔に向けられた刃を辛うじて避けたエァンダだったが、その頬に赤い線が走る。「っく」

 反対にタェシェはなにも捉えることができずに空を突いただけだった。だがそれだけで終わらない。エァンダはタェシェを短刀にしながら逆手に握ると、男の横顔に切っ先を差し向けた。

「おおっと」

 男はエァンダの手首を掴んだ。

「なっ……っ!」

 そこでエァンダは不快感を覚えた。臓物が浮き上がるような感覚。(くさび)の呪いの類だ。

 エァンダは咄嗟に男の腕に目を向けた。そして空間を拡大する。逃れるためにはそれしかない。いや、もう逃れられない。エァンダは考えを瞬時に改めて、身体を闘気で固めた。

 男の目がエァンダを見た。

 大きな衝撃を受け、エァンダは乱回転しながら吹き飛んだ。つららを折り、傷つきながら、ついに男から遠く離れた巨大なつららに背中を受け止められた。

「くはっ……ふっ!」

 エメラルドを鋭く細めると彼は、つららを足場に飛んできた方へと跳躍した。すぐに男が彼の前に現れ、二人は剣を交えた。

 そして男の後ろにはもう一人のエァンダが現れ、剣を振り下ろしていた。分化だ。

 分化体のエァンダが男の背中を裂いた。

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