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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
185/387

182:隣

「死んでから会うの何度目だ? ここまでくると、ほんとに死んだのかわかんなくなるぜ、まったく」

 彼の身体に入ったのは、紛れもなく彼の遺志だ。

「……どうやって?」

 セラはもう戦いはないだろうと、ヴェールを散らした。そして足もとに碧きステンドグラスを敷く。

「わからん。なんか懐かしい光があったから、追ってきたら、俺の身体があって、俺が死んでて俺の身体が動いてるってことは、そいつは俺じゃないだろ? だから、とりあえず取り返そうと思って飛び込んだんだ。そしたらよ、なんか窮屈で、頭が痛くてよ。だから包帯取った」

「ふふっ、ズィーらしい」

「だろ?」

 ズィーは笑いながらスヴァニを背中に納め、両手でハヤブサを身体の前に持ってきた。じっとかつての愛剣を見つめたかと思うと、セラに差し出した。

「これはもう俺のじゃねえからさ、ズィードに返しておいてくれ」

「自分で……」セラは言いかけてやめて、ズィーからスヴァニを受け取った。「そっか、わかった」

 現実世界でのこの再会は刹那的で奇跡的なものなのだ。彼にはそもそも時間がない。存在していない。肉体がここにあって、愛用の剣がここにあって、数多の想いが集った結果、ここに現れたのだ。

「あと、俺の身体、アズに頼むよ」

「うん」

「やっとビズの隣で眠れるな」

「そうだね」

 ズィーがセラの方へ近づいてくる。

「その頭の朱いの……ちょっともやっとするけど、似合ってる」

 セラは簪に指を触れて微笑む。「ありがとう」

 ズィーはセラの真ん前に辿り着く。

「じゃあ、またな」

「うん……」

 ふっと力が抜けたズィーが倒れてくるのをセラはしっかりと受け止めた。

「またね、ズィー」



「今回は引き下がりましょう。僕ではやはり手に負えないのでね」

 呼吸を乱したクェト・トゥトゥ・スはゆらゆらと揺れながらその姿を消した。残されたアレスとセラは荒れた研究室で剣を下した。

「とりあえず、終わったな、セラ」

 セラは険しい顔で首を横に振った。「違うよ、アレス」

「え?」

「はじまったんだよ。……わたしはこれから『夜霧』から逃げないといけない」

「セラ……」

「さよならだね、アレス」

「は? なんだよ急に。おれはお前に付き合うって言っただろ?」

「それは、わたしが誰なのか見つけるための旅の話でしょ。もう、わたしは誰で、なんのために生まれてきたのか、わかったから……知らない方がいいのかもなんて言ったけど、大体察しがついてるんだよね……。ムェイ。『白昼に訪れし闇夜』の器になるために、一番近い肉体を持つセラを映した機脳生命体」

 アレスは剣を納めた。「で? だから?」

「だから……これはクェトが言ってたみたいに、セラの正義感がそうさせるのかもしれないけど、わたしは絶対に、『夜霧』に捕まっちゃいけない……!」

「はあ、それで?」

「それでって、『夜霧』が追ってくるんだよ! これ以上アレスと一緒にいたら、危険な目に遭うかもしれない! だから、わたしたちはここで、った……!?」

 アレスはセラの頭を小突いた。

「誰がセラに戦い方教えたと思ってんだよ」

「それは、もともとわたしの中にセラの戦闘データがあったからで時間が経てば結局思い出しとぅえっ…‥」

 アレスはセラの頬を指で両側から挟んだ。

「そんなこと言うなよ。おれたちの思い出だろ。そんで、これからも作るんだろ、思い出。一人じゃ作れねーだろ!」

「……!」

「セラがいるべき場所がおれの隣なら、おれがいるべき場所はセラの隣だ」

「ありぇす……」

 つままれたまま喋ったセラの声は、小さく震えていた。

「ふんっ、とことん付き合ってやるよ」

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