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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
184/387

181:刻まれた記憶

 現れたアルケンからさすらい義団に危機が迫っていることを聞いたセラとユフォン。

 セラはユフォンにペレカと一緒にいるように言ったが、対して彼は治癒が必要かもしれないからと同行を申し出た。セラはそれに首を横に振ったが、当の本人であるペレカがユフォンに「行ってください」と言ったことで受け入れた。

 それからアルケンと共にセラは先に立ち、ユフォンはペレカをスウィ・フォリクァに送ってから『怠惰な大河』に足を向けた。

 彼が『怠惰な大河』に着くと、すでに上空には碧と紅が火花を散らしていた。

 ユフォンはズィードに治癒のマカを施しながら、大きく荒れる空を心配そうに見上げる。セラなら大丈夫だろうと思いながらも、相手が相手だ、彼女が思い出に付け込まれないか憂いてしまう。



 遠く見える河岸にはユフォンの姿がある。これでズィードは大丈夫だろう。セラも戦いに集中できる。

 クェト・トゥトゥ・スの包帯にはいろいろと厄介な点がある。その中でも今セラにとって一番厄介なのは、生者であったときを大きく上回る力の発現だ。

 見たところズィーに巻かれているのは頭だけのようだが、それでも、全身を巻かれていた魔闘士フォーリスや獣人ガルオンに比べて格段に大きな力を感じる。

 記憶にあるズィーの強さの数段上をいく実力を目の前のズィーは持っている。彼を一目見た時にはヴェールの力を用いなくとも止まられるものだと感じていた。だが、本気を見せた彼の力は想像以上だった。ズィードたちが窮地に追い込まれるわけだ。

 包帯の技術も上がっている。なにより、ズィーは触れないナパードを使えるようになっている。それはつまり『思考の箍』を外しているということだ。単純な力の上昇だけではないのだ。

 想造の力の持続時間にも限度がある。長引かせはしない。

 狙うのは頭の包帯だ。

「っは! さっきっから狙いがバレバレだってんだよ!」

 ズィーは自らの包帯を指し示す。その言葉も態度も、かつての面影が薄い。その凶暴性は別人とも思えるほどだ。だからこそ彼の身体を取り返すことが、今一番の弔いになる。

「その身体は返してもらう!」

「他人みたいに言うなよ! 俺が俺だ! 『紅蓮騎士』ズィプガルだ!」

 激昂と暴風と共に迫るズィー。セラは彼の到達より早く彼の頭上に逆さまにナパードした。フォルセスを振り抜く。思惟放斬により包帯だけを斬る。

 これよりも前に、触れないナパードで包帯だけを剥がそうと試みたが、セラの熟練度をもってしても包帯は跳ばなかった。きっとクェトが対策を講じたのだろう。

 それは斬撃にもか。

 包帯は今の一撃にも無傷だった。

 急停止したズィーがスヴァニを斬り上げてくるのを、セラは腰のウェィラを抜いて防いだ。と、その途端、スヴァニとウェィラが光を発した。

「なんだ!?」

「なに……?」

 光に目が眩む。


 夕日の差し込む『竪琴の森』。剣のぶつかり合う音が鳴り響く。


 視界が戻る。セラだけでなくズィーも目が眩んだようで、空中で二人のナパスが動きを止めていた。

「今のは……なんだ」

 頭を押さえてズィーが顔を歪める。そして一転、目を剥いてスヴァニを振り上げた。

「なにをしたっ!」

 振り下ろされるハヤブサに、セラは一瞬フォルセスを差し向けたが、身体を咄嗟に回転させてウェィラで受けた。

 また光が。


 薄群青の都市ホーンノーレンに、泥が飛び散る。激しい剣のぶつかり合いが響く。


 これはスヴァニが見せているのか、ウェィラが見せているのか、はたまたセラ自身が無意識にやっているのか。とにかく、スヴァニとオーウィンが刻んできたセラとズィーの戦いの記憶だ。

「またっ……! こんなもの見せて、なにが目的だ!」

 ズィーが眩みながらも突きを放ってきた。その刀身にウェィラを這わせるように走らせ、セラは攻撃を逸らす。

 そしてまた、光だ。


 砂上。倒れていくズィー。その手からセラがスヴァニを抜き取って握った。


 今のは神リーラとの戦いのときか。「重い、けど軽い」そう思った記憶がよみがえる。

 セラはあの時同様、思わず笑ってしまう。

「なにをっ……笑って、やがる……」

 セラを睨むズィーは苦しそうで、もう攻撃を仕掛けてくる気配はない。セラの時間も迫ってきている。包帯を除去するならここだ。

 ただ傷もつかず、ナパードも通用しないこの包帯をどうすればいいのか。想造の力そのものに破壊の力はない。マカの炎で燃やすか、それとも気魂法か。セラは自分が知る破壊に適した技術を頭の中で探った。

 そんな折だった。

 ズィーの身体が淡く紅い光に包まれた。まるで彼からにじみ出るように。

 それにセラが訝しんでいると、苦しむズィーは自らその包帯に手を掛けて破り捨てた。

「っくぁーっ! 鬱陶しいわっ。ふぅ、やっと出れた! ったくよお、勝手に人の身体使いやがって、どこのどいつだ」

 時を止めた幼馴染が、溌溂としてそこにいた。

「ズィー……?」

「おう、セラ」

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