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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第四章 黄昏の散花
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179:救いの手

「なんで……さっき真っ二つになったのに……?」

 シァンは船縁に手を着いて、慄いた。

 さっきズィードが斬り伏せたズィプが、何事もなかったかのように平然と歩いていた。倒れたズィードの元まで来ると、突き刺さるスヴァニを抜いた。

「これは俺のだって言ってるんだ」

 ズィードへの興味を全くなくし、シァンたちの方へ向かってくるズィプ。

「っが、ああ゛っ、ぐそっ……! チグジョー…‥」

 ズィードが船へと歩みを進めるズィプを追うように這って、その足首を掴んだ。

「……」ズィプがズィードを見下ろす。「誰が偽者だって? 誰が!」

「ぐぁ、ゲッフ…‥っがは、ぁぁぁ……」

 ズィプがズィードを蹴って離したかと思うと、、怒りをぶつけるようにそのあとも何度も続けて蹴った。

「ズィード!」

 シァンは船から飛び降りて、無我夢中でズィプに向かっていった。駿馬で懐に入り込んで拳を突き出す。

「話になんねーな」

 手首を掴まれて、潰されそうだった。

「ぐぅぅっ」

 涙を溜めた竜の眼で紅を睨む。

「話する気なんて、最初からないでしょっ」

 ケルバがズィプの背後を取って、敵の首を目掛けて蹴りを放つ。だが、空気の壁が阻んだ。

「っち」

 距離を取ろうと身を引くケルバ。だが、現れた空気の壁に背中をぶつけて体勢を崩した。「んなっ!?」

 そんな彼に向かって、シァンは振り回される。

「くっ」

「っきゃ」

「二人いれば充分だろ、試し斬り」

 倒れた二人にズィプが向かってくる。



「待でぇ、よぉ……」

 ズィードは這って、手を伸ばす。スヴァニさえ取り返せばと、おぼろげな頭で考えた。

「スヴァ、ニ……来……ぃ…………」

 力尽きるとはこういうことなのかもしれない。ズィードはまったくもってどうでもいいことを頭に、その腕から抜けていく力を呪った。

「くそ…………」

 目の前が真っ暗になる。もうすぐ、腕は地面に着くだろうか。その頃には、シァンもケルバも……。



 迫るズィプに対してケルバは、剣が手元にないことを悔やんでいた。

 スヴァニと剣を交えることさえできれば、ズィードとシァンを助けることができる。

 ズィードに貸した剣は彼の手にはもうない。彼が河岸に飛ばされた時にはすでに持っていなかった。衝撃でどこかに落としたのだろう。

 ケルバは顔を歪めてズィプを睨む。

 今から義団の仲間たちを助ける方法がケルバには一つだけあった。ただそれは彼にとって辛い選択であり、できることなら取りたくないものだった。

 大事な友の命を護る代わりに、大事な友を失う。

「仕方ないか」

「え?」

 ケルバの零した言葉に、シァンが訝しんだ。それに応えるようにケルバはシァンに笑いかける。

「シァン、さよなら……じゃないみたいだ」

「……?」

「アルケンが帰ってきた。それに――」

「セラも!」

 シァンの顔に安堵が広がった。ズィードが『紅蓮騎士』となったときと同じように。そしてそう思うケルバ本人も、心落ち着かせていた。まだしばらくの間、義団の一員でいられるのだと。



 掬われた。

 地面の冷たさではなく、人肌の温もりにズィードの手は優しく包まれた。

「もう大丈夫。後は任せて、ズィード」

 セラの声。

 なにが起きたのか、目を開けることなく察した。

「ユフォンがあとから来るから、今回は戻さないからユフォンに治療してもらって」

 そしてそのまま目を開けることなく、ズィードは安堵の中に眠った。

 救われたのだ。



 ズィードのそばに舞った碧き花に、シァンとケルバだけでなく、ズィプも反応を見せた。足を止め、振り返る。

「セラ……!」

 もう他のことは眼中にないとばかりに、シァンとケルバに駆け寄ってくるアルケンを素通りさせた。

「ごめん、遅くなっちゃって……」

「これが今回の逃げ道ってことか。アルケン」とケルバが肩を竦めていった。

「うん。今が一番安全だよ」

 シァンはアルケンの笑顔の言葉に、彼と同じ能力がなくても確かにと思った。セラが来たのなら、それ以上に安全な場所はないだろう。

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